思ったより早く用事が終わったウィリアムは、時間を持て余して近くのカフェに入ることにした。休日のカフェは朝はやくにも関わらず込み合っていて、ウィリアムは近くで何かイベントでもあるのだろうか、と思う。

やっとのこと相席で入ることになったカフェで、ウィリアムはアイスコーヒーを頼んだ。
相席になった男性は色の濃い肌に、黒髪のアジア系の容姿をしている。愛想がよいらしく、相席のウィリアムにどうも、と軽く声をかけた。それに会釈を返しながらウィリアムは話しかける。

「混んでますね……こんな早い時間なのに」

「あれ、知らないの?近くでブルーローズのライブがあるの」

そういった男性は、さも意外といわんばかりだ。

「はぁ……そういったことには疎くて。ここ最近仕事が忙しかったし。あなたはそのライブに?」

そういいながら上から下まで眺める。左手の薬指の指輪。既婚者。なんだかとてもそんな風にはみえない。

「いんや、通りすがっただけ」

なるほど、というと、ガラスコップに入ったアイスコーヒーが届いた。
ウエイトレスにチップを手渡す。

「ヒーローか……」

ウィリアムのつぶやきを拾った男は、ひょいっと意味ありげに眉を上げた。

「もしかしてあんまり好きじゃない、とか?」

そう聞いた男の意図をつかみ倦ねて、ウィリアムは首を傾げる。ヒーロー関係者だったりするのか、それともヒーローのファンなのだろうか。

「ヒーロー自体は好きだよ……うん」

まっすぐな彼らを見てるとまぶしくなる。
点数を競うライバルであるはずなのに、彼らは誰かを救うことに対してとても一途で、自分の持つ能力を惜しげもなく誰かのために使う。
それがとても好ましい。だけれど、それが彼ら、NEXTと呼ばれる特殊能力者が存在するために、この街、シュテルンビルドが存在するために、政治的に利用されている、ということがウィリアムには少し気に食わなかった。

「そうか」

それ以上を追求しない姿勢が嬉しくて、ウィリアムは少しだけ笑う。そろそろ待ち合わせの時間が近い。ランチでも食べてから買い物をしよう、とウィリアムは思う。

「じゃ、僕はそろそろ。ありがとう」

「こちらこそ」

その笑顔が明るくて、裏表のなさがキースみを連想させる、と少しだけ思って、ウィリアムは伝票を掴んだ。

もしかしたら、キースは同僚のステージをみたいだろうか、ウィリアムは考えた。

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