「買い物に行きたい?」

スクランブルエッグを頬張りながら言うと、目の前の同居人は喜色満面でうん、と答えた。

「そろそろ新しいトレーニングウェアがほしいんだ。そしてほしいんだ」

「そうだね。君の仕事着だし、今日は特にすることもないし。洗濯物干したらいこうか」

うん、と答える男はやはり嬉しそうだ。いつもこんな感じだからあんまり気にしていなかったけれど、大の男がここまで素直に感情を出せる、というのは珍しいと思う。

そして、とても好ましいと思う。

「こうやって休日が一緒になるのはひさしぶりだね」

にこにこと笑うキースに悪気はないのはわかっているが、ついうっかりため息が漏れる。

「……出張途中一旦帰ったからね……事後処理が大変だったんだ」

「ごめん」

分かりやすい、とウィリアムは思う。まるで頭に耳でもついているかのように気持ちの上下がわかってしまう。

「僕が投げ出してきたのが悪いんだから」

それでも申し訳なさそうにするキースの手は完全に止まっている。

そんな、優しいところが好きで、放っておけないのだけど、と思いながらウィリアムは少しだけ自嘲的に笑う。

「洗濯物してる間に、犬の散歩行ってきなよ。君の犬でしょ」

そういうと、キースはぱっと顔を上げる。自分の話題に気づいた犬が、同じく顔を上げて走ってくるのが見えた。
まるで犬が二匹いるみたいだ、とウィリアムは思う。

「いってくる、そして行ってくる!」

そういって犬の頭を撫でるキースを見て、やっぱりよく似ている、とウィリアムは思った。

犬が飼い主に似るのかそれとも元々キースが犬っぽいのか、と思いながらウィリアムは残ったトーストを口の中に放り込んだ。

「キース、僕はちょっと郵便局に行かなきゃいけないから、待ち合わせしよう。駅前の広場に11時でいいかな?」

「わかった。そしてわかった」

「なんか変更があればメールして」

一緒に行こう、と約束している彼はヒーローだから、何か事件があればすぐに出かけなくては行けない。そう思いながら言うと、キースはちょっとだけ困ったような顔をして、わかった、と一度だけ言った。

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