あまり、付き合いの薄い人には話しかけることのない滝川とは異なり、彼はなんの因果か席が隣になった滝川に積極的に話しかけた。

昨日の晩ご飯の話、TVの番組の話、担任の癖のはなし、古典の授業のちょっとした「おとな」な話。

どれも滝川も知っていて、返答に困らないテンプレではあるが楽しい会話だった。

そして、少しだけ新鮮だった。

滝川の家が寺で、滝川が「みえる」人間であるらしい、というのは滝川が吹聴した訳でもないのに周知の事実で、それがちょっとした話題を生み出したりして、滝川はそんなとき必ず「渦中」の人間になるわけなのだが、実際のところ滝川はそんなモノにうんざりしていて、それに突慳貪に返答をするものだから、滝川はクラスメイトからは少しだけ距離を置かれていた。

そして、そんな滝川と会話する人は、大抵その手の興味から滝川に近づいて、「お寺が実家ってどうなの?」とかそんな話をするのだった。

滝川はそれに対する「テンプレ」な答え方を用意していたが、それをすること自体を億劫だ、と感じていて、それしか話題のないことに対してちょっとしたコンプレックスのようなものをいだいていた。

そんなわけで、滝川は隣の席になった男と話をするのがちょっとした日々のスパイスのような楽しみになっていた。


そんな会話の流れで……現代文の授業で扱ったことの話だったような気がする……彼がふっと漏らした言葉がきっかけだった。


『俺さ、きっと恨まれてるから。』

ほんの些細なきっかけだった。縄張り闘争に負けてやせ細った野良犬の話で、彼が犬にとって毒になるとは知らずに、犬に玉ねぎたっぷりの菓子パンを与えてしまったのだ。

彼は、それを家に帰って父親に自慢したところ、父親が彼に玉ねぎと犬の話をしたのだ。真っ青になった彼が、野良犬のところに帰って、血を吐いて倒れた犬を抱いて獣医に駆け込んだ、という話だった。


『恨んでないと思うよ。』

それは、単なる同情とかそんなモノではなくて、滝川にはみえていたからだった。
感謝しているのだ、と滝川は感じていた。


そうかな、という彼に恨んでないよ、と断言した滝川は、どうして、という彼の問への返答に困った。

その滝川に、彼は今日、ウチくる?とへらりと笑って、脈絡なく放課後の約束を取り付けたのだった。



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