深夜。約束の時間。薄っすらと暗い中で灯りを灯すこと無く着替えを終える。一分の隙も無いことをそっと少しだけルーモスで照らして確認する。そして、使っていた机の中にこの日の為にしたためた手紙を置いてその上に重石を置く。
それから、いつもの窓を開けた。蝶番が軋むことはない。利用頻度の高いこの窓は俺がしっかりと調整してあった。
まだ、冷たい空気が部屋に吹き込む。
空には三日月。何度も何度も同じ月を見た。

今夜は、約束の夜。
「……何処へ行くんだ?」
後ろからかけられた強張った声に、イツキはそっと瞬く。まさか、起きているとは思わなかった。
無理矢理に笑顔を作って、振り返る。
彼の寝台に腰をかけて、パジャマ姿のレイリアがこちらを見ていた。
片手には、杖。真っ直ぐにイツキに向けられている。あぁ、今日はよく、杖を向けられる日だ、と思った。
その強張った表情に、自然と笑いがこぼれた。
俺の笑いに怪訝そうに顔をしかめて、それは、友人に向けるものではない、そんな表情で、レイリアは俺を睨みつける。
「……なんだよ……、何処へ行くんだ?」
「レイリア。レイリア・アーク。」
言葉に力を込める。言霊という。これの扱いが、イツキは誰よりもうまかった。
ビクリ、とレイリアの身体が震えた。
術をかけたから、金縛ってるはずだ。
「君と過ごした7年間……とても、楽しかった。」
こぼれんばかりに開かれた、両の目に、俺は笑いかける。
「ありがとう。さようなら。」
俺は、レイリアに杖を突きつけて、失神呪文を唱えた。

赤い閃光と共に、レイリアがベッドに倒れこんだのを見届けて、窓枠を蹴った。

さぁ、運命に、会いに行こう。


PREV(15/18)NEXT