満開の、夜桜だ。
……まだ、満開には遠かった、と思考する。
月は三日月。
……此れは夢だ、と小さく思った。
未来を、見ている。
振り返ると、ルシウスがいて、無表情にこちらを見ていた。
何も聞こえない。
耳が、痛くなるような静寂だ。イツキは、予知の目を持っていたが、耳は持っていなかった。
ルシウスの顔が歪んで、こちらを見た。
仕方がないんだ、と彼の口の動きが言って、杖の先が俺に向いた。
泣き出しそうな、その顔が更に歪んだ。
不器用に、彼はその顔を歪める。
涙が溢れ出して、風に吹かれて桜の花びらと一緒に水滴が散った。

どうしようもなく、綺麗だと思う。
彼の、端正な唇が、死の呪文を紡ぐのが分かる。
緑の閃光が弾けて、

俺は、グリフィンドールのベッドの上で、ぽっかりと目を開けた。

あぁ、俺は死ぬのか、と納得して、喉の奥で小さく笑った。


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