四月。
イギリスの桜はまだ先だ。
ふくろうが乱舞する中で、イツキは日刊預言者新聞を開き、その理由を知った。
……イギリスで中立を貫いていた家が、襲撃にあったのだ。
今までは、表立っての対立のある家同士の戦い、と言った様子だった戦局が一気に塗り替わることになる。
嵐のように落ちてくるふくろうは、皆家からの手紙を携えている。
全ては、その身を案じての手紙だ。
此処は、ホグワーツ。
ダンブルドアの手の中の、この世でもっとも安全な地帯。
だから、帰るように、ではなく、手紙の中身は家族の安否を知らせるものだ。
それに、中立を決めた葛城である、俺はかなりの衝撃を覚えた。
其れは、レイリアが俺の顔を覗きこんで、大丈夫か、と聞いてきても、分からない程度にしか俺の表面には出なかったが。


次の日だった。航空機のチケット入りの手紙が実家から届いた。
もう、我慢の限界なのだろう。
向こうでは、ホグワーツ自体が安全な場所という認識はない。今までの鎖国状態にも似た外交を続けるためにと送られてきたチケットを俺は燃やしてしまう。

俺の心は揺れていた。
今、ここで帰ってしまえば、二度とルシウスに会うことは無いだろう。
二度と逢えないと分かって、頭がはじけたような気がした。
はじめから、ずっと初めから、わかっていたはずだったのに!
ずきりずきりと痛む心臓を抑える。

大きな、七年間。
そう、七年間。

愛してる、と初めて言ってから、そんなにも経とうとしている。
気づけば、自分の全ては彼だった。

失くす、という現実が目の前に広がって、ぽっかり開く、胸の喪失感。
この胸に開いた穴を埋める方法を、俺は知らなかった。
これと共に、俺が生きていく?……正気の沙汰ではない。
そう覚悟して、生きてきた筈。
なのに、なのに、
今更、迷う。
普段、威厳たっぷりなルシウスが、俺の作ったお菓子を食べて、幸せそうに笑う。
冗談を言うと、はじめ真に受けて、怒って、そして、笑う。
気恥ずかしそうに、俺の贈り物を身に付けて、デートに来てくれる。
愛おしくて、愛おしくて、
たまらない……。

離れがたいのではなく、離れることは出来ないのかも知れない、と漠然と思った。


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