7年生。


最期の年がやってきた。
相も変わらず、俺はルシウスのところに通っている。
ルシウスは俺が朝の5時から待っていると知って、6時に待ち合わせをするように提案した。
待ち合わせ、という言葉が嬉しくって、くふくふ笑っていると、レイリアに能天気め、と頭を小突かれた。

全くもって、友好的と呼ぶことが出来なくなってしまった、両寮の対立の最中、自分だけは許される現実に気づいてはいたが、それが学生のうち、という条件付きであることは、はなっから承知の上だった。

傍観を決め込んだ、葛城の家からは次期当主の身の安全の為にも、早々の帰還を求める式文が良く届くようになった。
それに、そつなく返事を書いて送るが、戦禍の広がる一方なこの中で、気休めの言葉は書く事は出来なかった。

言葉の束縛は、重く、深い。

何度か新調した符が、胸のポケットで数回揺れた。
中からルシウスが出てきて、俺に笑いかける。
「やぁ、おはよう、イツキ」
「おはよう、ルシウス。」
それに笑いかけながら、隣に走り寄る。待ち合わせの時間通りだった。それが、彼が諦めたせいなのか、それとも彼が受け入れてくれたのか、イツキは知らない。でも、それが嬉しいから手放しで受け入れる。
大広間に向かって、歩き出す。
今、この幸せを噛み締める。



「……イツキは卒業して、どうするんだい?」
そう聞いたルシウスに俺は平然と返した。表情は動かさない。
「日本に帰って、頭首を継ぐよ。」
「……そう……。」
彼の表情が、小さく翳った。
「大丈夫だよ、すぐにでも会いに行くから」
イツキは笑いかける。複雑そうに顔を顰めたルシウスは首を竦める。
「……また、私はストーカー被害に悩まされ続けるのか。」
「そういうことかな」
くすくす、と俺は笑った。

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