「……そういえばさ、見えないの?」
彼の疑問は最もだった。
彼と、特筆して親しくなったのは滝川が『見える』体質だったせいだった。
「……あー、ちょっと頭ぶつけてさ、見えないの。」
「……そっか。」
彼は何かを考えるように目を伏せた。
それは、滝川が知らない顔だった。
彼の髪の毛は、黒い。それが彼の地毛だ、ということは多分確かなことだった。
その髪の毛はしっかりと整髪剤でまとめられていて、彼の「私服」はきっちりとした仕立ての良いスーツだった。
滝川は詳しいわけではなかったが、それが海外製なのだろう、ということは察しがついた。
もともと、整った容姿をしていた。
彼の容姿は、ナルやリンの側に立つのにふさわしい。
滝川は、自分が知らない彼に少しだけ嫉妬した。
「でも、まだ、こっちのことやってるんだ。」
彼がこっち、というのは彼らの言う「ゴーストハント」なのだろう、と滝川は思った。
まさか、彼が、「こちら」にくるとは滝川には予想外で、そしてそれは嬉しいことでもあった。
「本業じゃないけどね。見えないけど、除霊できないわけじゃないし。」
「ほおっておけないんでしょ。君は有能だものね。」
へらり、と笑う。その顔に、あ、と思う。
その顔は知っている。彼が、笑うときの顔。
「本業って、なにやってるの?」
そういえば言ってなかっただろうか、と思いつつ、んー、という。
他の人に言うのはしれっと言えるのに、彼に言うのだけは気恥ずかしかった。
「まさかぷ……「ちがいますー」」
はっとした表情で口にしようとした言葉を遮る。
「……ミュージシャン。」
一拍おいて口に出した言葉に、彼もまた一拍おいてその言葉を咀嚼してから、目を見開いた。
「何してるの?」
そのなにしてるの、という言葉が世間体とかそういった仕事を指しているのではないことを滝川は知っていた。
「ベース」
滝川が短く答えると、彼は少しだけ目を伏せて、優しく笑って、そっか、といった。
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