*   *   *

 眠る時間が増えた、と思う。
 彼は現実世界から逃げるように夢を見る。そして、逃げたはずの夢の世界でもはらはらとその眦から涙を流す。
濡れそぼった睫毛が揺れるように動いて、黒い瞳が静かに覗いた。

『ぎんとき』
そう言って彼が手を伸ばすと、決まって彼の側にいるあいつが、そんなやつほっとけよ、と言って頬を膨らませた。
せんせいがみんななかよくするように、っていってたよ、と彼が困ったように言うと、しかたない、と言ってあいつはそっぽを向く。
『いこう』
そう言ってのばされた手を取ると、その手はひんやりと冷たくて、自分の汗ばんだ手から伝わる熱が少し恥ずかしかったのを覚えている。

痩せてすっかり細くなった手が宙を探るようにさまよう。
その掌を掬うように捕まえるとゆっくりと握り返されるのがわかった。
「銀時……」
膝の上に乗せられた頭が少し動いて、黒い瞳が自分の顔をとらえていた。
「……怖いよ、銀時……」
こうやって、不意に彼は正気にかえる。
黒い瞳を濡らして、眦から滴がこぼれおちた。
「そばに居る……、俺はお前を置いていったりはしないから……」
あやす様に、片手で泣きはらした目元をこれ以上見たくなくて覆い隠した。
もう片方の手でつかんだままの手をゆっくり握ると、そっとその手が握り返されるのがわかる。
「ごめんね、ごめん、銀時……」
だから、まだ少しだけこうしていて、という彼に、自分が他にしてやれることはない。
自分は、あいつではないのだから。
花と共に飾られた風車が、冬の訪れを告げる冷気を孕んだ風にからから、と音を立てて回った。

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