彼の瞳は、出会ったときからひとつも変わらず、ずっと空虚なままだ。
空っぽな目に空っぽな表情。
何も見たくない、とすべてを拒絶したあの時から、少しも変わらない。

「ご苦労だった。」
かえり血を浴びたその姿に声をかけると、報告書書いてくる、と言って笑って横を通り抜けて行った。
横を通った時に鼻についた濃い血の匂いに、土方は眉根を寄せた。
「その前に、風呂に入って血洗い流して予備の制服に着替えて来い。血生臭いままあるからたらこっちが迷惑だ。」
黒い制服は見た目にかえり血がそれとわからないが、しっかりとすった血の臭いは消えない。
「あぁそっか。」
そう言って彼は改めて血を吸って重くなった制服を持ち上げる。
「みんな、気になるよね。」
そう言いながら、着替え取ってくるといって彼は自室へと向かう。
彼を、隊員にしたのは間違いだった、と未だに土方は思う。
傷だらけの血まみれで倒れている彼を拾ったのは完全に気まぐれだった。
空虚な目をした青年を、楽に死なせてやるものか、と暗い気持ちで思った。
人手が足らなかったのが、未だに変わらない事実だった。
『僕が、やろうか?』
彼がそんな風に言い出して、彼は隊士になった。

―――桜が舞う。
目の前を横切った花びらを彼は素早く手を伸ばしてつかみ取った。
『知ってる?土方君。』
何をだ、と紫煙を吐き出しながら言うと彼はコレ、と言いながら花弁をつかみ取った掌をそっと開いた。
『花びらをね、地面につく前につかみ取ったら願い事がかなうんだってさ。』
彼はそう言いながらつかみ取った花びらをふ、と息を吹きかけて飛ばした。
『……お前は、信じてないのか。』
そう言うと、彼は目を閉じて、笑った。
いつもの、笑顔ではなく、自然に綻んだ、というような笑顔に息が詰まる。
『ほら、僕って反射神経いいじゃない。だからすぐ掴めちゃうんだよね。』
そう言って彼は不規則に揺れる花びらをつかみ取って見せる。
『有難いから、願い事をかなえてくれるんだよ。』
そう言って彼はもう一度手を開いた。
掴まれた花びらは風に攫われて舞い上がった。


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