駆け足で雨の間をすり抜けるように走ると、一際おおきなコンクリートの固まりが見えてくる。
それが、ホームとよぶサリヴァンたちの基地だった。

とても人の住むのに適した所ではない、とくるぶしの辺りまで貯まった濁った水を見て、伊月はおもった。

「遅かったじゃないか。」

卑下た表情でサリヴァンたちを迎えたのはキルフェだった。
無精ひげの目立つ年頃。サリヴァンはこの間、10歳ほどの少女がレイプされて殺された事件の犯人がこの男だと確信していた。自分になついていた少女。そのほかにも年頃の少女にこの男が手を出しているのを、サリヴァンは知っていた。

なのに追放しないのは、自分がこのコミュニティで権力を振るうことに違和感があったからだった。

クロロは、自分がやるべきだ、といった。

地面には、紫色の虫の混じった米が撒かれていて、顔を変形させて血をはくカッツェが倒れていた。


「・・・・・・なにをしている。キルフェ。」

伊月は声を低くして言った。キルフェは鼻で笑う。

「役立たずに制裁を加えてただけだ。こんなものしかもってこれない、な。」

そういって、水の届かない岩場に座ったキルフェはカッツェを顎でしゃくった。

「・・・・・・ちがっ・・・・・・キルフェが、米を、どっかにもっていこと、してっ・・・・・・」


血をはいてせき込んだカッツェに、伊月はクロロと目を合わせて治療するように伝える。それにうなづいたクロロは伊月たちが居た岩場から飛び降りてその服が濡れるのもかまわず水の中に沈むカッツェの体を抱き起こした。

「証言を聞こう。まず、カッツェは役立たずではない。少なくともそこに散らばっているものは食料たるといえる。そのような貴重なものを撒いた罪はキルフェが独白しているからそちらについてではなく、カッツェとキルフェの言い分についてだ。」

その言葉に、はっと数人が伊月を見てからキルフェ視線を走らせた。

「おやおや、権力者気取りかい?」

キルフェが笑う。

「このコミュニティの責任者は私だ。」

はっきりと宣言すると、キルフェに視線を走らせて目を伏せたものたちがはっきりと自分をみた。サリヴァンは自分が権力者である、と宣言したことがなかった。

「嘘をつくものにはかばったものと同様の罪を負わせる。もしキルフェが盗難をしようとしたというのならば、このコミュニティから、追放せざる得ない。」

「キルフェが!キルフェが嘘をついています!」

少年が叫んだ。少年はしばらく前になぜ、キルフェを追放しないのか、といった少年だった。

「ほかには。」

「カッツェがうそをついています。」

「嘘をついているのはキルフェだ。」

順番に聞いていく。意見を述べたものの名前を順番に述べて、数を数え上げる。

「証言多数により、キルフェ、その他キルフェをかばったものの追放を命じる。このことは議会に報告する。以後、この近くにおまえたちが近づくとそのときはそれが命の終わりになることを自覚すること。10分やる。その間にコミュニティのものに危害を加えた場合はその場で始末する。」

名前を呼ばれたものたちが呆然としながら立ち上がる。

「すぐに殺してよ!」

少女が叫んだ。彼女の顔の半分は青くはれあがっている。それはキルフェがしたものだった。
それに伊月は無言で返した。

ひとまとまりの荷物を持って、キルフェがでていく。それを見送りながらため息をつこうとしたとき、伊月は殺気を感じて顔を上げる。拳をふりあげたまま跳躍したキルフェがそこにいた。

伊月はその腕を避けて、掴んだ。片足をかけて、蹴りを牽制する。いつも避けるばかりのスタイルだったサリヴァンにキルフェは驚いたように目を見開いてその腕をはずそうと引いた、が、手は動かない。

「ルール違反だ。キルフェ。」

伊月は低く言った。
青年期迎えたキルフェとまだまだ少年の域をでないサリヴァンでは、その体格差は大人と子供、といって差し支えなかったが、それはハンデにはなり得なかった。

伊月は掴んだキルフェの腕をそのまま粉々にへし折った。

うめくキルフェにかまわず、動きを止めるためにかけてあった片足でそのまま片足をへし折る。

キルフェは、絶叫した。そのまま拳を鳩尾に納める。内蔵の壊れる感触がした。

前倒しに倒れるキルフェの頭を容赦なく突き飛ばして水のたまる地面へと倒した。伊月はそれを追って、容赦なく局部を踏みつけた。つぶれる音がする。そのままおれていない片手片足を順番に踏みつけて動かないようにへし折る。

キルフェは顔をぐしゃぐしゃにして死にたくない、と叫んだ。

「そうか。おまえが殺した少女、サツキもそういったのか?柄にもない物まねは虫ずが走る。」

そういってそのまま顎を蹴りあげると顎骨が砕けてキルフェの声は悲鳴混じりのうめき声だけになった。

「クロロ。ナイフを貸してくれ。始末してくる。あと、10分は過ぎている。早くでていけ。」

伊月が冷たく言い放つと、ひぃっといいながら追放を命じられたものが走っていく。

「そんなものを殺すためのナイフはない。」

クロロが言うと、伊月は仕方ないからくびでもおるか、と何でもないことのようにいって、自分より一回り大きいキルフェの体をかつぎ上げた。




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