自分はここでなにをしているのだろうか。
伊月は考えた。
雨がしとしとと降り注いでいる。それをしのぐようにして伊月はコンクリートの固まりの隙間へ入り込んで身を縮めていた。
雨宿りをしているのだ。
今日の分の食べ物を探して少し脚を伸ばしたのだが、雨に降られて、雨は体力を奪うので、なけなしの体力を温存するためにコンクリートの裂け目に入った。
かえっていきなり、自分の地位を虎視眈々とねつらう、キルフェに殴られては貯まったものではない。
自分は権利とかそんなもののためにこんなことをしているのではないのだ。
そんな風に思いながら、伊月はもう一度、なぜ、と自分に問いかけた。
伊月の出身は日本だ。日本にはこの様な土地はない。
ボランティアにこの地にやってきたのだろうか。
伊月自信は他人の為に日常を逸脱しようなどと考える人ではなかったし、それがいつのまにか変わっていたとも思えない。
伊月は平々凡々な大学生だった。
少し本を読むのが好きではあったが特筆することなどなにもない大学生だった。
それがなぜ、ゴミだらけの、治安の悪い地域に、伊月がガキ大将として君臨しているのか。
そんなことを考えながら弱まった雨足に、そろそろ帰らなければいけない、と伊月はおもった。
夜は危険だ。野犬や正体の分からない不要になった誰かが捨てていったペットたちがばっこする。
弱い生き物なら真っ先に食べ物になってしまうから残っているのは必然的に狩られなかった者たちだ。
暗くなる前には帰らなければならない。
そんな風に考えて、伊月は自分の足下の荷物をみた。
見つけた缶詰が数個に本が数冊。汚らしい本は見たこともない象形文字でかかれている。それが、伊月はハンター文字と言うのだと知っていて、またそれを読むこともできた。そして、伊月はその本をなによりも大切にしていた。
ゆっくりとその荷物をじゃまにならないように抱える。本が雨に多少濡れてしまうのはこの際仕方ないだろう、と伊月は考えた。
そこで、本を拾い上げようとした手に違和感を覚える。
記憶にある自分の手は、有色人種特有の黄味がかった色をしていた。すらりとのびるそれは、どう見ても白色人種のものであった。
整った爪の形は自分の記憶にある者と寸分違わないが、少々記憶にあるよりも小さい気がする。
少年特有の丸みを帯びたラインに均等につく筋肉に、これは変だ、と思ったが、同時に当然、見慣れたものである、という風に伊月は思った。
とりあえず悩んでいる暇はない、と荷物を抱えあげると、少し遠くに誰かの気配を感じた。
足音が、知っているものだったので、伊月は警戒を解いて、ひょっこりとコンクリートの裂け目から頭を出した。
「クロロ、」
そういって、現れた少年の名前を呼ぶ。
「少し持って。」
そういって二三個缶を並べると、わかった、といってクロロが近づいてきた。
黒い髪の少年の名前が、クロロというのだと、それが自分の仲間なのだと、伊月は知っていた。
「キルフェが憤っている。サリヴァンが帰ってこないっていって。」
クロロがその黒い目をこちらに向けていった。
「そう。言わせておけばいい。」
「どうしてほおっておく?」
「僕はここをものにしたいわけじゃないから。追い出したい訳じゃない。」
「治安が悪くなる。」
「もともと悪い。」
とりつく島がない、とクロロが肩をすくめた。
「ほかの収穫は?」
「あまり。カッツェが米の山を見つけたけど、虫がわいているし、水がない。」
「虫か。毒虫でなければそのまま食べればいい。水は雨期になるまでとっておけばいい話だ。」
「そうだな。あと、食べられる草と、水の捕獲組が飲み水を。」
「あとは俺の缶詰か。なんとかなるかな。」
「サリヴァン、キルフェたちに食べ物をやる必要はない。やつら自分で食べて、こっちにはよこさないくせに上前をはねていく。」
「・・・・・・そうだな。」
その通りだ、と同意した伊月は、サリヴァンというのが自分のことであると知っていた。
「言うとおり、そろそろ潮時かもしれない。」
伊月はクロロに同意した。キルフェたちをここら一帯から追い払うのは簡単だ。元々、居住に適した地区ではないために伊月たちのような子供の住む地区。ここらは伊月がしきっていた。
いや、サリヴァンが、というのが正しいかもしれない、と心中訂正を入れる。
伊月は自分がサリヴァンであり、かつ、伊月である、という事実を認めていた。
クロロは幼い頃に知り合った友人といえる唯一の人物だった。ここに捨てられる前に様々なことを学んで、それを実践するサリヴァンを信頼してついてくる自分物の一人で、サリヴァンはクロロにいろいろなことを教えていた。
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