木枠の窓を通って、緩やかに風が吹く。
日差しが当たるところはじっとりと汗をかくこともあるほどに暑いが、逆に日差しのないところではひんやりと吹く風が熱をうばって肌寒い。長袖の裾をめくったり、伸ばしたりと忙しい季節だ、と伊月は思う。
伊月はクラスメイトの一人を、日差しの加減で影になる廊下で呼びとめた。

「このことで葛城と話すとは思わなかったな。葛城ならこんなの笑って一蹴するかと思った。」

音楽室の幽霊を見た、というクラスメイトはその一部始終を伊月に語った後にそう言った。
この学校では幼稚舎からではないかもしれないにしろ、長い付き合いのものが多く、話したことがある、ないにしろ、同じ学年のものについてはよっぽど相手に興味がない等ではない限り相手の性格をある程度把握している。
そんなことに興味を示しそうにもない、と自分でも認めている伊月はきまり悪そうにそっぽを向いて頭を掻いた。窓も向こうで黄緑色の若葉が揺れる。

「…まぁ、な。ちょっと気になっただけだ。」

「ふぅん。まぁ、いいけど。たまにはこういうのも。…珍しいっていや、この件で的場に話しかけられたぜ、俺。お前、的場と同室なんだろ?」

彼は伊月を意味ありげに見つめた後、伊月がそらした視線を追って、伊月と同じ木枠の向こうの景色を見た。

「…的場に?的場って、こう言うことまったく、興味なさそうなのに。」

普段カバーのついた本を黙々と読んでいる的場は片目を眼帯で覆い、長髪であるという奇妙な外見をしていることは確かだが、成績優秀で、至って真面目な学生だ。そのことを4月になってから同室になったばかりではあるが、伊月はよく知っていた。
伊月の言葉を受けて、彼は少し考えるようにして首をひねってからいたずらっ子のように笑った。

「だよなぁ…となると、この噂もなんだか変な真実味を帯びてきて楽しいよな。」

「…楽しくねぇよ。」

ぶっきらぼうにワントーン下げて唸るように言った伊月に、そいつは困ったように眦を下げた。

「…悪かった。」

「いや。」

その言い方があんまりにも情けなくて、自分でも少しいいすぎたような気がしたのでそういって断わりをいれた後、伊月は俺がわるかった、と口ごもるように一言つけたした。

視線をそらした先で、黄緑色の若葉が、突き抜けるような青空のもと初夏を告げる日差しに揺れていた。








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