「葛城、伊月くんだね?」
寮監の人は手の中の書類を見ながら伊月に確認するように言った。
「はい」
「同室の子は、もう来てるよ。部屋は白樺201、君はもう使い勝手はわかってると思うから、説明は省くね。」
軽い調子で言いながら、さっていく寮監に、こうやって自分の名前を訂正するのはなんどめだろうか、と考えた。少なくともあの寮監に名前を呼ばれる度に訂正しているに違いない。
「…名前、聞いてないし。」
聞きそこなった名前に少し不安を覚えながら、伊月は重い荷物にいい加減げんなりしながら痛む肩の為にひもを少しずらして、軋む木製の階段を上った。

今まで住んでいた場所と同じデザインだが、他の部屋など滅多に行くことがないために、階が違ったりするだけで新鮮な感じがする。

201、というプレートを再度確認してアンティーク調の取っ手を掴んで開けた。
長い黒い髪が見えて、俺はそれだけでそれが誰なのかを知ることができた。
「…あぁ、君か…。こんにちは。」
張り付けたような笑顔で笑う眼帯のクラスメイトの名前を、俺は静かに舌にのせた。
「…的場、静司くん…、よろしく。」
誰とも必要以上に親しくしない的場は、その長髪や、眼帯の容姿から高等部からの編入生ともあって有名人だった。
「確か、葛城伊月くん、だったね。これからよろしく。」
彼が差し出した右手を、俺はおずおずとつかむ。
ばちり、と静電気がなって思わず手をひっこめると、的場も同じように驚いた顔をしていた。
こいつも、こんな人間味のある顔をするのか、と幾分かあった不安を少し薄めながら、伊月は快活に笑ってもう一度手を差し伸べた。
「ごめん、俺少し帯電しやすいんだ。これに懲りずによろしくね。」
「吃驚したよ。こちらこそよろしく。」
少しだけゆるくなった笑顔に伊月はもう少しだけ不安を薄めた。





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