「アトリ草はやめたんだっけか」
「必要がなくなりましたから」
にっこりと笑ったマリリアードが、ハーブティーをください、と言った。
サリヴァンが集めているハーブはただのハーブでは済まされないものが多く混じっている。混ぜ方によって致死性の毒になるものもあって、それを絶妙に調合してサリヴァンはハーブティーを作るのだが、それを調合するのが得体のしれない魔物扱いされているサリヴァンであるせいもあり、飲んでくれる人間が中々居ないのが問題点だった。
マリリアードはそれを気にせず飲んでくれる数少ない人間の一人だった。
透明のポットが青い色に染まっていく。
ふわりと甘さを含ませた芳香が巻き上がる。
「不治の病だと聞いていたが、いいのか」
「完治しましたから」
「それは、例の遺跡のせいか」
チラリと黒髪の友人を視線で窺う。本来ならサリヴァンは目を使う必要はない。精神走査すれば隣にいる人間が何を考えているか、場合によっては本人よりもずっと詳細に知ることができる。それが出来ないのはマリリアードが精神感応持サリヴァンという事もある。精神感応を持っている人間は読み取り辛い。それでも、一番の理由はそれではない。
人間を知るということが、人間関係を築くということであることを、鋭い言葉でサリヴァンに教えたのがマリリアードだったからだ。
こんな年下の人間に教えられるということがあるとサリヴァンは思っては居なかった。しかし、さっさと精神感応でマリリアードの頭を探ろうとしたサリヴァンを跳ねつけて、不機嫌になったサリヴァンに外見だけではなく中身まで子供のようだ、とマリリアードは言った。
勿論、侮蔑されることに反発したサリヴァンとマリリアードは殺し合いを演じることになった。
どうにかこうにか、お互いどうしても殺したいという意志がなかったおかげか納まって以降、能力を使うことは殺意に通じるとして使えなかったことに加えて、言葉を重ねて、サリヴァンはマリリアードの友人になった。
その、友人関係でも利害関係に通じるところは敢えて踏み込まない部分がある。例の遺跡、と言うのは、それに近い部分だった。

ラフェール星がラフェール人にとっての死の星になったあと、このラフェールの王子であるマリリアードがラフェールの復興の為に居住星として選んだのが惑星カイユだった。
そして、ラフェールの復興と独立を阻止せんとカイユに攻撃を仕掛けた勢力を、武装をあまり持たないラフェールが壊滅させたことがあった。それを可能にしたものが、ラフェールに眠っていた遺跡だと、サリヴァンは少しだけマリリアードに聞いていた。本来なら、白氏族が一番知りたがっている情報なはずで、それをサリヴァンは他の連中に教えるつもりは無かったが、マリリアードがその点についてどう思っているのか、サリヴァンは知らなかった。
マリリアードは少しだけ含み笑って、そんなものです、と答えた。
楽しそうなマリリアードにサリヴァンは溜息を吐いた。この男と話していると、自分が生きてきた人生が一体何だったのか、と思うことがある。

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