マリリアード・リリエンスールの髪は漆黒だ。世間一般にラフェール人は金髪で、華奢な体躯であるから、非常にがっしりとした、地球系(テラノーツ)よりもフィラル系に近い彼の体躯と併せて、本人の申告がなければマリリアードがラフェール人だとはわからなかっただろう。
彼曰く、ラフェール人の中に黒髪の子は一定の確率で現れるのだという。しかし、その大半の存在は知られることはない。黒髪のラフェール人は他のラフェール人と根本的に異なる部分があるという。まず第一に能力。ラフェール人は種族全体で弱い精神感応力(テレパス)である共感能力(エンパス)を持っている。その能力は王家の者は精神感応と呼べるほどに強いらしいのだが、それに関係なく黒髪のラフェール人はある程度の能力を持っている。そして、もっとも異なる部分は黒髪のラフェール人は人を殺すことが出来る、という点だった。
白氏族のサリヴァンはふぅん、という程度にしか思わなかったが、ラフェール人にとっては大きな違いであるらしい。ラフェール人は、共感と輪を尊び、人を殺すことが出来ないのが一般的なのだ。
一切合切人の生死に興味のないサリヴァンに言えた話ではないが、理解のできない話である。
だから、黒髪に生まれたラフェール人は忌み子だったというのだ。
黒髪のラフェールは生まれた時に、殺人が出来ない普通のラフェールに代わってそれを行う黒衆というものに入れられたのだという。しかし、王族であったマリリアードはそういうわけにも行かず、王宮でまるで居ないように扱われて育った、と、マリリアードは苦い口調で語った。
異端だったサリヴァンには面白くない話であったが、のちに考えてみると、ラフェールの恥部であるその話を、マリリアードがサリヴァンにして見せたのには、意味があったのかもしれない、とサリヴァンは思う。
たとえば、白氏の中で実力者で有りながら異端であるサリヴァンが与し易いと思ったとか。
そうして共感しやすい話題でサリヴァンを味方につけようとしただとか。
何者かの悪意によって、一度は滅びたラフェールの生きる道はそうなだらかであるはずもなく、強かな彼がそうしたとして不思議はないし、サリヴァンはそれを不快だとは思わない。
それでも、サリヴァンは彼がサリヴァンに近づいたのは打算的なものだけではないと思っていた。

理由としてあげるならば、マリリアードがサリヴァンに対して言葉で語ったこと。
サリヴァンやマリリアードのような精神感応者にとって、情報量の多い事柄を伝えるときには情報をそのまま頭の中に送り込む、という手法が一番簡単で、サリヴァンは殆どその手法に頼って生きていた。
精神感応者では無いものとの会話などして来なかった、という意味だったが、そのサリヴァンの姿勢を変えさせたのがマリリアードだった。
「お話をしましょう」
と、アトリ草の香りをさせたマリリアードは言った。
サリヴァンは当時暇だったから、そう言った気紛れも悪くはないと思っていたが、言葉にしてはじめて、意図の難しさに気づくこともあった。
誰かに何かを伝えたいと思うようになった。
誰かと言うよりは、その相手はマリリアードだけだったのかも知れないが。

そこまで考えてサリヴァンは、ああ、そうか、自分にはマリリアードしか居なかった、と気づいた。
マリリアードには他になんだってあったのに、サリヴァンにはマリリアードしか無かった。

それが決別の理由ではなかったが、きっと、そんなことも要素の一つだった、とサリヴァンは思えるようになった。

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