取り敢えず、血の臭いがしたのだ。他の妖魔が近づいてこないとも限らない。
朔掩は無言で男の手を引いた。
手を引かれた男を月明かりの下であらためて見ると意外に若く、背格好は青年に近かったが面差しは殆ど少年と言っていい程の年代だった。
朔掩はその少年の名前を相変わらず思い出せなかったが、わかっていたとしても言語が通じないのでは話し掛けることも出来ず少年の名前を呼ぶ機会などないわけで知らなくても問題ないだろうと、朔掩は心中結論を出した。
無言で少年に荷造りをするように伝えるとどうにか伝わったらしく、旅をするには相応しくない、旅人として少年が素人であろうことを如実に示す荷物が出来上がった。
家出だろうか、と朔掩は少年の身なりを見ながら思う。
少年の服はその辺の農民が着るものよりはよっぽど良いもので、朔掩が掴んだ少年の手は労働をするものの手ではなかった。
それはそうと、少年に自分が救われたことは確かで、真相はさておき、朔掩の存在のせいで少年が街に帰れなかったのであれば、朔掩には少年を安全なところに送り届ける義務があった。
朔掩は野木を探して黙々と歩く。その朔掩の後ろを少年は息を切らせながら歩いてくる。
潮の匂いが山のなかであるに関わらず届く。きっと、自分が打ち上げられでもした海辺からはそう遠くないのだろう。
海沿いならもしかすると港があるかもしれない。
そんなことを考えながら朔掩は後ろから少年が着いてきているのを確認した。疲労の色が濃いが、まだわかいのだから問題ないだろう。と朔掩は判断した。
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