火が消えた。

直観的に、遅いと思った。


殺気が空気を満たしていた。
動かないほうが無難だろうか、と目を閉じたまま辺りの気配を伺う。

近くに人がいて、火を消したのであろうその人が緊張しているのがわかる。

その男の名前を夢のなかで聞いた気がしたのだが、どうにも思い出せなかった。

これは長い間記憶を封じられていた後遺症だろうが、と朔掩は思った。

男がそっと動いて朔掩の上に大きな布をかける。カムフラージュのつもりだろうか。姿が見えなければ誤魔化せると踏んだのかもしれない。

部屋に置いてあったのだろうその布は埃っぽい臭いがした 。
布には穴が開いていて、そこから窓の外の様子を 伺うことが出来た。

ざわざわ、と月明かりに照らされて暗闇で蠢くのは木か、それとも他の何かか。


緊張感に神経が研ぎ澄まされる。

もう少し正確に辺りの気配を探ろうかと思ったが、相手がこちらに気付いていない可能性を捨てきれない状態で、下手なことをしてこちらに気付かせるようなことはすべきではない、と踏んだ。

それにまず、いつもなら問題はなくとも、自分の現在の状況は決していいとは言えない。
熱は引いたようだが、倦怠感は拭えない。
その上、手元に武器はない。巧を抜けたときに使った武器は、きっと王の亡骸とともに海に流れてしまった。

武器が無くても戦えなくはないが、心配なのは呪のことだ。
こちらの、対仙、対妖魔の武器は特殊らしいのだ。


そこまで考えて、朔掩は気配を殺した。

周囲の音が鮮明になる。

部屋にいるもうひとりの男の押し殺した呼吸音が聞こえた。

これは、妖魔にみつからない、という望みは薄いな、と思った。






ゆっくりと、なるべく気配を殺した状態で呼吸を整える。

…動けるだろうか?

全身の筋肉をわずかに動かす。

いける、と朔掩は確信した。




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