今までにないくらい着飾らされて、足には枷がつけられた。


重いはずの枷は動くことの苦にはならなかったがそれは言わないでおいた。何を付けられるかわかったものではない。

山に積まれた財宝と、町から連れてこられた娘たちとともに、自分は王宮に運ばれた。

王宮は大きな山の上にあった。


こんな大きな山は見たことがないと思った。

暗い部屋に荷物とまとめて入れられる。王は貢ぎ物は受け取らないのだと誰かが言った。

このまま送り返されたら自分は殺されるに違いないと思った。


だから逃げた。

迷路のような階段と、廊下の道を小走りにかける。

足についた枷がじゃらじゃらと音を立てて石造りの床にぶつかる音が邪魔だった。

ひらひらとした服も邪魔だ。

見つかればすぐに逃げたことがばれてしまう。


隠れ、怯えながら走った。

随分と気配のないところに来た気がする。

人の気配がしない。


いつの間にか内装が豪華になっているのを見て、もしかして奥の方に来てしまったのではないか、と絶望的なことを思った。


女が歩いてきて、慌てて近くの部屋に滑り込む。
扉に張りついて扉が開かないようにして女が去っていくのを見届けた。

ほっと息を吐いて視線をあげて自分はあっと息を飲んだ。



自分がいた。



正しくは自分によく似た人の絵画があった。よく似たひとというのもただしくはないだろう。だってその人には銀色の大きな羽があったのだから 。


我を忘れてその絵画に魅入った。

何で、この人物には羽が生えているのだろうか。なぜ、この人物は自分にそっくりなのだろうか。


だから、天使だときかれたのか。


「一体、誰が、何のために…」

茫然とつぶやいた。

「数年前にこの国に降り立った羽の生えた人妖を見て、心を奪われた絵描きの山客が描いたものだよ。彼はその絵の人物を天使と呼んでいた。」


独り言に対する返事に、慌てて振り替える。

差し込むわずかな光源に慣れた目に、はっきりと目の前の男が見えた。

「………っ!」

見付かった、と思いながら後退ると、彼は目を見張った。

「君が、あの男の言っていた、例の海客かな?」

ガセではなく本当にそっくりだ、と男は言った。

「賓客として招待するよ。この城に。」

男はそう言った。

「……あなたは……、」

「私かい?私のことはみんな、主上とか項王と呼ぶよ。」

「……しゅ、…じょう……」

平伏しなければならないのだろうか、と考えながらつぶやくと、項王は笑って、そのままでいいよ、といった。

「名前は?なんて言うの?」

項王が聞いた。


「………アイザック・ニュートン……」

変わった名前だね。と項王がいう。呼びづらいから名前を下賜するといわれて固まった。

なんて勝手な。


「朔掩っていうのはどうかな?うん、そうしよう。」

勝手に話を進める男にぽかんと口をあける。


そうして、そのときから自分は朔掩になった。


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