お触り禁止!


土方が沖田に驚かされることなど日常茶飯事だし、ちょっとやそっとの事ではもう驚かない、とすら思っていた。

日々の暗殺、巧妙な罠、呪いの儀式、悪趣味な監禁。これらを乗り越えてきた土方にとって、もはや沖田のする事にいちいち驚いていられない、というのが正直なところで。それなのに今、土方は現状を理解出来ない程、驚いていた。

「っはぁ、あうう、んっ……」

沖田の悩ましい声が、土方の寝起きの脳内に響く。おかしい、おかしすぎる。自分はいつも通り仕事を片付けて、一人で眠りについた筈だ。確かに沖田とは恋仲にあるが、今日はそんな色事をした記憶など無い。

それなのに何故、目の前で彼が乱れているのだろうか。

「……ちょ、まっ……総悟?!お前、何してんだよ?!」

ずしりとした重みと熱さに目を覚ませば、自分の上に恋人が股がっていて、更には局部を露出させ、それを一心不乱に扱いている。そんな状況に出くわした人が果たして歴史上にいたのだろうか。おそらく初めてなんじゃないか、と土方はぼんやり思った。

自分の上に股がっている恋人は、下半身に一切の着衣を纏っていない。当然、見たくなくたって目に入るのは彼の大事な部分で。それは既に勃ち上がっていて、沖田自身の手が添えられていた。
つまりは、自慰行為だ。単純明快、自分を慰める行為を彼はしている。自分に股がって。

「……はぁ、土方さん、」

とろん、とした瞳が土方を見つめて、辿々しい言葉がおはようごぜえやす、なんて呑気な事を口にした。土方は未だに開いた口が塞がらない。

「おま……な、何してんだよ……」

呆れる、と言うより意味が分からなくてそう問えば、沖田は自慰行為を続けたまま答えた。

「な、何って……ナニで、さァ」

はぁ、と吐息まじりに答えた沖田は、土方の上で一心不乱に己を扱く。それに土方はチッと舌打ちをして、左手を額にあてた。
理解不能だ。しかし考えても沖田の事など分からない。それよりも大事なことは、まざまざと自慰を見せつけられて、自分も反応を示していることだ。
恋人のそんな場面を目の前で見せつけられてこうなるのは当たり前の事だ、と土方は半ば開き直っている。むしろ、これは沖田なりのお誘いなのだ。そうに違いない、と土方は思い込んで、ごくりと生唾を飲む。そして彼の自慰に混ぜて貰おうと、その手を恋人の元へとのばした。

「っ!ダメでさァ!土方さんは見てるだけ!」
「はぁ?!」

のばした手は、沖田によって叩きおとされてしまった。地味に痛い手のひらを思いつつ、土方は抗議の声を出す。

「てめっ、誘ってんだろ?!」
「そりゃあ、残念ながら勘違いです」

恋人に股がって自慰をしておきながら、触るな、誘っていない、と主張するのは果たして有り得るのだろうか。しかし沖田によると、どうやらお触り禁止らしい。
意味が分からない、どうにも理不尽だ、と思うも、拒否されてしまえばそれで終わりだ。土方は悩ましげに彼を見つめるしか出来ない。下半身を露出させ、自らの手で高めていく恋人の熱も感じるのに、手出しは出来ないなんて。自分は何の修行をしているのか、とすら思った。

そうこうしている間に、沖田の方はクライマックスに突入しているらしく、呼吸する声がせわしく部屋に響いた。手の動きが一段と早くなって、精を吐き出そうと快楽にとろけた瞳が涙を流す。その姿は何とも官能的で、土方の情欲をそそる。しかし何も出来ない土方は、自身の主張が激しくなっていくだけだ。それを無意識なのか、沖田の尻がすりすりと熱を与えてくるのだからたまったもんじゃない。土方はぐっと眉を寄せて、行き場の無い熱に唇を噛み締めた。

「ひあっ……ん…!」

どうやら達したようで、沖田の甘い声と共に、熱い白濁が土方の身体の上に落ちた。
全部を出しきって、沖田はそのまま土方の上にぽすんと重なる。はぁはぁと肩で息をしながら、全身を土方に重ねて、そのまま、瞳を閉じた。

「……総悟?……総悟くーん?……おい嘘だろ総悟!!」

どうやら自分だけ済ませて寝てしまったようで、土方は嘘だろ、と顔を青ざめる他ない。欲情を煽るだけ煽って、そのままとは。これは何の試練なのだろうか。土方は思わず涙を流した。


end

(130416)

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