ちびそご!


土方はもとより鋭い双眸をさらに細め、眉を寄せて沖田を睨んだ。山崎はその威圧感にびくびくと脅えているのに対して、沖田はいつもと同じくけろりとした表情を見せる。それがさらに土方を不機嫌にさせた。

「で、どういうことだ」

声までもがいつもより格段低く、怒りのオーラを放っている。しかし沖田はものともせず、おなじみの軽い声で返した。

「どうって、見たまんまでさァ」

きょとん、と怒りの形相をした土方を見つめる沖田は、普段よりさらに幼い顔をしていた。
顔、というより全てが幼い。小さい体に小さい手、柔らかそうな肌、普段より高い声はまさしく子供のものだった。ちょこん、と正座をしていれば、本当に小さくまとまっている。

「いきさつを聞いてんだよ!なんだよその小せぇ体は!」

土方がこめかみに筋を浮かべながら怒鳴ると、すかさず山崎が沖田の一歩後ろで肩をびくりと震わせた。

「黒の組織の怪しげな取引現場を目撃した俺は、背後から近づくもう一人の仲間に気づかなかったんでさァ」

「お前はコナン君かァァ!!」

沖田の不真面目な発言に盛大に突っ込むも、沖田は相変わらずきょとんとその大きな瞳を土方に向けている。どこまでもふざけた回答に呆れ果てて、というより苛々しすぎて、土方は煙草へと手を伸ばした。深く深く煙を吸い込んで、大きく吐く。漂う煙に、沖田は鬱陶しそうに眉を寄せた。

「もういいお前に聞いた俺が馬鹿だった。おい山崎、どうしてこうなった」

沖田と会話が成立することなどないじゃないか、と半ば自棄になりつつ、土方は視線を山崎へと送る。山崎は隅っこで小さく纏まりながら、恐る恐る声を絞り出した。

「え〜っと…そのですね…この前押収した天人の薬を誤って飲んだらしくって…」

ぎろり、と土方が鋭い視線を送るものだから、山崎は悪くもないというのに、スミマセン、と何度も繰り返していた。沖田が勝手に薬を飲んで、勝手に小さくなった。それだけなのに、何故だかとばっちりを食らってしまうのだ。俺は沖田さんの教育係じゃないのに、と山崎は思うが、勿論口に出せる筈もない。

「…んなことだろーなって思ってたけどよ。総悟の目につかないとこに保管しろって言っただろ」

土方自身、そんなことだろうなぁ、とは思っていた。この世界で不可思議なことがあれば、イコール天人のもたらしたものだろう。突然ドライバーになったり、二年後の姿になったり。以前真選組の大将がゴリラになったりしたが、あれは違う話だったけれど。

土方は天人がもたらす災厄に、慣れを覚えてしまっていた。動揺や混乱というより、呆れの感情が強い。訳の分からない薬を作る天人も、それを飲んでしまう沖田にも。

「んで、いつ元に戻んだ」
「何言ってるんですか土方さん。コナン君が何年戻れないでいると思っているんでェ」
「おめぇは黙ってろアホ」

自分の身が小さくなったというのにまるで他人事のようにけろりとする沖田に、土方は渾身の睨みを送った。しかしその小さな姿はまるで動じない。

「あっ、俺、まだ詳しく分かんないんで…、調べてきますね」

山崎は逃げるように立ち上がると、土方の部屋を足早に出て行った。

小さな沖田と2人きり、土方はわざとらしく溜め息をつく。

「とりあえず元に戻るまで外出禁止な。つーかこの部屋から出んな」

沖田は分かり易く嫌そうに顔をしかめるが、土方には知った事ではない。なにせ自業自得だ、恨むなら自分のアホさ加減を恨め。そんな眼差しを沖田に送った。

それにしても、小さい。改めて沖田を観察すると、本当に子供の外見と同じだった。出会った時はこのくらいだっただろうか、と思いを馳せる。確かにこれくらいの大きさだったなと思い、しみじみと沖田の成長を感じた。残念なことに中身はまるで成長していないが。

「…なぁ、ちょっと立ってみろよ」
「?へェ」

土方がそういうと、沖田はその場で立ち上がった。しかし座っている土方と目線は殆ど同じで、改めてその小ささを感じる。

「ほんとちっちぇーな…」

土方はその小さい両腕をがっちりと掴んで、まじまじと沖田を観察した。掴んだ腕も、いつもより柔らかい。

「…ムラムラしやすか?」
「しねーよ!なんでガキ相手にムラムラしなきゃなんねーの?」
「えっ今の俺べらぼーに可愛くねェですか?」

自分で言うか、と土方は呆れの色を示した。まあ確かに可愛い、とは土方も思う。しかしムラムラとは別の話だ。流石に、こんな子供を相手してしまっては犯罪者の領域に入ってしまうだろう。しかし普段から未成年に手を出しているのだけれど。それまぁ、18だからセーフだ、と土方は自分に言い聞かせた。

「…ちゅーしても良いですよ」
「いやいやいやいやなんでそーなんの」

心なしか沖田の呼吸が、荒い。土方の首に手を回して、真っ直ぐに土方を見つめている。まるで発情した犬、みたいだった。

「こういうのはキスすりやァ元に戻るって相場が決まってんですよ」
「…なに、なんでお前いきなり発情してるわけ?」

明らかにムラムラしているのは沖田の方だ。土方はくっついてくる沖田の腰を掴んで戻そうとするが、掴んだ拍子にぴくりと沖田が身じろいしてしまうものだから、いけない事をしてしまった気分になる。

「流石にガキ相手にそーゆーのは気が引けんだけど…」
「今更何言ってんですかィ、あんたはもう立派な犯罪者でさァ自信持ちなせェ」
「…泣いていい?」

どうするか、と土方がぐるぐる思考を巡らせる。いまの沖田とそんな、色めいた事をするのは本当に、本当に犯罪者だ。というか沖田は何故こんな時にだけ発情するのだろうか。普段の姿だったら、そりゃあもう喜ばしいことなのに。

「…っいーからしろよ!」
「逆ギレ?!」

ああもう、と土方は頭を抱えながらも、なんとでもなれ、そんな思いを見いだしてしまった。

ぐい、と腰を引いて、小さな沖田を目一杯引き寄せた。そして小さな唇に、お望み通りのキスを落とす。柔らかいのはいつもと変わらなかった。どんなに沖田が小さい姿であろうと、やはりこの行為は良いものだ、としみじみと感じてしまった自分に、一抹の不安だけが残る。

ゆっくりと唇を離すと、沖田はぺろりと唇を舐めて、土方の胸にすっぽりと埋まった。

「…やべェ、ムラムラしてきやした」
「おい待てよ、そんな体でムラムラされても困るんですけど」

ぽん、と沖田の背中を撫でて、子供をあやすように土方はそう言った。しかし視線は不自然に天井を見つめている。

「…あんただってムラムラしてるくせに」

土方の胸の中で籠もったその言葉に、土方は返す言葉もなかった。小さい沖田を抱きかかえたまま、土方はただただ天井を見て、葛藤を繰り返すのだ。



end

土方さんは果たしてこの後どうするんでしょうか…w沖田が発情したのは、いつもより大人に見える土方さんが格好よく見えたから。

(110831)

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