「キスしろよ」


「キスしろよ」

2人きりの場面で言われたからには、強請られているのだろう。そのこと自体は問題ではない。たとえ物凄く唐突であっても、総悟はそういう奴だと分かっているし諦めてもいる。しかし、余りにも可愛さの欠片もないのは、如何なものだろう。もっと他にあるんじゃないか、誘いの言葉ならいくらでも。さらに言うと、無表情で言う台詞でもない。しかし、これに関しても諦めている。

「…なんで上から目線?」

とりあえず聞いてみると、あからさまにムッとした。無表情からの展開はまあ良いが、機嫌を損なわれても困る。俺だって一応、こんなチャンスを逃したくはない。

「…じゃあ、ちゅーしろよ」
「いやいや上から目線なのは変わってねぇぞ」

少しだけ可愛くはなったが、とは言わないでおく。気持ち悪ィ、えろオヤジみてェ、と言われることが分かっているからだ。

「いいからしろって言ってんだろィ」
「頑なに上から目線なのか」

もしかしたらこれも諦めなければいけないんだろうか。そんな風に考えたら、もうどうでもいいかと思ってしまった。総悟から色事を強請られるなんてそれだけで幸せじゃないか。我が儘はよそう、ちゅーして下せェ、なんて甘い言葉を期待しちゃいけなかったんだ。つーか俺、本当にえろオヤジみたいだな。

「…じゃあ、目ぇ瞑れよ」

総悟はなんの躊躇いもなく瞑った。軽く感動だ。仕掛けたのが総悟だから、従うのは当たり前だと思わなくもないが、天の邪鬼な総悟にしては珍しく素直だから。

しかし、何か裏があるのだろうか。悲しいがな、普段の癖で疑ってしまうのだ。まあ総悟の日頃の行いが悪いせいなのだが。

なんだろう、口の中にとんでもないものを隠し持ってるとか?いや、そんな様子は見られない。じゃあキスしようとした瞬間写メでも撮られるのだろうか。間抜け面ゲット、とか言って。…有り得る、非常に現実的だ。それは回避しなくては、と総悟の両手を見る。一応何もないみたいだが、油断は出来ない。俺は総悟の両手をがっしりと捕らえた。
すると目を瞑ったままの総悟がびくり、と動く。視界の無い中で突然両手を捕らえられて驚いたのだろう。なんだか可愛かった。とりあえず、拘束という形から繋ぐ形にする。…なんだか恥ずかしくなってきた、この年にもなって。

律儀に目を瞑ったままの総悟に近づく。あーこれどこまでのキスなら良いのだろう。触れるだけ?つーかそれ以上やったら止まれないぞ、と悶々と考える。というか、キスを強請られている時点でその先の行為も期待されているのだろうか。しかしそれで拒まれたら傷つくのは俺だ。何もガラスのハートなのはドSだけじゃない。かといってこのまま目を閉じた総悟を前に何もしないでいる訳もあるまい。よし、とにかく要望に答えよう。つーかなんとでもなれ。

顔を近づけると、気配が分かったのか総悟はぴくりと反応を示す。ああ睫なげぇな、とか感動しつつ、その唇に触れた。ちゅう、と触れて、中に侵入する。総悟もそれを拒まず受け入れてくれた。
最初の頃は、べろべろすんなんておかしい、と狼狽えた総悟だったが、今では少し慣れたようだ。不器用ながら俺に合わせる様が可愛らしい。だから思いっきり遊んでやる。だってこんな時くらいしか、この生意気な子供の優位に立つ事が出来ないんだから。別に悲しくなんてない、諦めているから。

存分に総悟の口内を乱し、少し苦しげな様子に満足を覚えた俺は唇を離した。総悟はずっと閉じていた瞳を開けると、小さく肩で呼吸をする。そしてぺろり、と唇を舐めた。無意識なのだろうが、俺は自分が食べられたみたいでなんだか恥ずかしい。…その思考も女のようで恥ずかしい。

「…どうも」
「いや、別に…」

これはきっと総悟も恥ずかしがっている。まあ俺も恥ずかしいが。お互い何にも言わないから、沈黙がなんとも気まずい。

「…つーか、なに。本当にキスしたかっただけか」
「…俺が何か企んでるとも?あァ、だから両手塞いだ訳ですか」

繋いだままの両手を掲げて、総悟は軽蔑の眼差しを送る。確かにその通りではあるが、それは総悟の日頃の行いが悪いせいだというのに。なんで俺だけが悪いみたいになってるんだ。

「…お前が突然キスしろだなんて、そりゃあ疑うだろ」
「そんな信用ねェですか?」
「いや、まるでねぇよ」

自分の行動を考えろ、とは思うが、総悟はさも不愉快だと言いたそうな表情だった。

「別に、今回は何も企んでねェのに…」

小さく呟いたそれに、ぴくりと繋いだままの両手に力をいれる。って事は本当にただキスがしたかっただけなのか?総悟にもそんな気分があるのか、とか。色々思う所はあるが、とにかく恥ずかしい。なんだって今日の総悟はこんなに可愛いのか。普段は死ねだのマヨネーズ詰まらせて死ねだの美少女フィギュアの角に頭ぶつけて死ねだの言うくせに。

「…それなら」
「?」

未だ不機嫌そうにいる総悟に、にやけそうになるのを抑えながら普段と同じトーンを心掛けて声を出した。

「もっかいする?」

しかし至極楽しそうな声色に、自分で自分が恥ずかしくなった。しかし総悟も恥ずかしそうにしているから、まあ良いか。恥ずかしい奴らだと笑えばいい、俺は諦める術をしっているから。


end

恥ずかしい土沖…w土方さんが中学生男子みたいですね。

(110529)

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