一面雪景色の中にある集落があります。それはとても小さいけれど、住んでいる人たちはよく覚えている人たちばかり。ずっと眠っているだけのあの子も、雪を降らせるちいさなあの子も、周りを歩いていたあの人もよく覚えています。でもやっぱり一番よく覚えてるのは、湖の向こうのあの子。あの子は、素敵な髪をしていて、とても可愛いお部屋に住んでいました。何より、美しいひとでした。でも、死んでる顔は誰より醜かったのです。電気の消えた真っ暗な部屋の中に横たわっていたあの子は、唯醜い笑みを浮かべたまま動きませんでした。
それから私はたくさんひとを殺しました。あの子を殺したのは誰なのか、もし、あの子を殺した奴が解ったら復讐しなきゃ。そう思ったからです。たくさんひとを殺して、追いかけられて、捕まったり、逃げ出したり。病院に連れていかれたり、やっぱりまた逃げ出したり。本当に色んなことが有りました。でも結局、答えは出なかった。そう思っていました。
ある日、本当に、何気ない日常の中で、私は二つの事実に気づきました。あの子の胸に突き刺さった包丁が私のものだということと、私の中にはもう一人、誰かが居るという事です。あの子の部屋に行って、腐りかけのあの子が可哀想に思えてきて、胸の包丁を抜いてあげました。それを洗ったら、根元のほうに私の名前が書いてあったのです。そのとき、私は血の気が引いて、手から包丁を落としました。
そこからの私の記憶は欠けています。気付いたら私は手放したはずの包丁を握っていて、目の前には知らない首が二つ転がっていました。
これは、私の中の誰かの仕業だ。私はそう思うしか自分を救う方法が思いつきませんでした。
その誰かは、私の中の人格だけど、私と会話することはない。でも、確実に私の中に存在するひとつの人格。それなのに私はそれを理解することが出来ない。絶対に違う存在だから。だから、私が殺したんじゃない。そう考えることにしました。私に罪は無いはずでした。
でも、ある日、ゆめを見たのです。真っ赤な迷路のような狭い通路。その真ん中に、出来損ないの透明人間のような私と同じ顔、体、服の彼女が立っていました。
彼女は、私を唯じっと見つめていて、私は、それに近づいて触れようしました。でも、それは無理でした。彼女に、あなたは誰なの?、と問いかけました。すると彼女は、驚いた顔をして口を開きました。

「私なんて存在は無いわ。だって、あなたは一人しか居ないでしょう?」

それだけを音にして、彼女は消えてしまいました。たったそれだけだったのに、私は気付いてしまいました。彼女は、私なのだと。
目が覚めた時、涙がこぼれました。今まで私が殺した命は、いくつほどあっただろうか。唯、たくさん、。何故、殺したのだろうか。あの子の、復讐のために。あの子を殺したのは、誰だっただろうか。他の誰でもない、私が殺した。

絶望、というのはこの状態のことを言うのだと、私は感じました。
私は、これから最後の夢を見ます。でも、よく眠れるかはわかりません。どれほどのひとが私を苦しめるのか、それは、私にはわかりません。でも、今は唯眠いので寝ることにします。

おやすみなさい。



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