未完成 | ナノ
Rと鳥坂


 すり寄るような春めいた匂いが部室にやってきてから、もう暫く経つ。外では春の顔をした冷えた風が吹き続けているのに対し、部室ではちぐはぐに生ぬるい春が占拠していた。ふいにぶつかる春嵐に、噛み合わせの悪い窓が悲鳴を上げ、部室に居座る春が嘘であることが公になる。しかしそんな嘘を好む人間しかいないここでは何ら問題ない。心地よさを具現化した部屋に、光画部の活動は限りなく不必要なものだった。

「鳥坂さん、今日はお仕事へ行かないのですか」
「こんな日に仕事などできるか」

 おぼろげな温さは、眠気を引き出すための要素をすべて兼ね備えている。学ランに下駄姿のアンドロイドも、瞬きをせずとも差し支えのないはずの双眸の瞼をぴたりと閉じ合わせていた。

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