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 夜の帳が下りると、枯れていた安堵が妙に満ちる。さざめくようだった鼓動も、次第に甘やかな速度を見つけるのだ。それは母胎に還るような気持ちに似ている。

 どうやらこの街の夜は、星のコレクションが多いようだった。ネオンの少なさからか、産声のような星すら鮮やかに見える。久々にもったりと過ぎる夜は、とても美しいものに思えた。
 任務も片付き、彼らは部屋で休息に身を沈めていることだろう。しかし、明日にはこの街を発つのだと思うと、この夜を眠ることだけに費やすのは些か惜しい気持ちになる。暫くの間、あの瞬くような星を眺めていたいと思った矢先、不意に鼓膜にかすれた扉の開閉音に耳を峙てた。

「ジョルノか?」

 ふやけた声で話すミスタは、夢の泥濘からまだ抜け出しきれていないようだ。欠伸をひとつこぼして、窓際のソファへ腰掛けている僕へ歩み寄る。何をしているのかと問われ、星を見ていたのだと答える。彼はそれから何も言わず、空いた隣へと深めに腰を掛けた。やはりまだ眠いらしく、うつらうつらとする彼は、次第に伏し目がちになりその睫には月明かりが乗る。その様に、僕は紛れもない美しさを感じていた。

「ここで寝ますか、ミスタ。」
「……ああ。だからどっか行くんじゃねえぞ。」

 瞼は下りたまま囁くように落とした言葉は、存外甘みを帯びており思わず彼を凝視する。しかし当の本人である彼は、既に眠り始めていた。置き去りにされた僕は、彼の言葉を優しく噛み拉くように愛撫している。
 時間がもったりと過ぎるにつれ、背凭れへと預けていた身体が僕へと掛かる。肩口でゆったりと寝息を立てる彼の前髪を撫で、その目元へとキスをした。

「ミスタ、僕はあなたに惹かれてばかりです。」

 彼は、僕と愛を共有することに長けた存在だ。それは母胎にも似た。





羊水にたゆたう星
20110326
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