グルリ。

現代パラレル 学生ロキド

ああ、俺は呪われているのかもしれない。

それはひと月程前に興味本意で嘖んでしまった野良猫の所為か、はたまたふた月程前に自身が騙し込くった為に自殺未遂に走った哀れな女の恨みの具体化か何か。
そんな事知ったこっちゃねぇが、人に恨まれる節が幾つも有り余る性悪な俺には到底起因を合点出来そうにない。

“呪い”だなんて下らねぇ、それこそ阿呆ガキみてぇな思案を殊の外俺は大真面目に巡らせている真っ最中だった。此処何ヵ月の間で可笑しな出来事が引っきりなしに続く続く。そりゃあ、呪いでも何でも信じてしまう程に気味の悪いものなのだ。

発端は確か、み月ほど前に付き合ってた女が突然死んだ事だろう。特別、愛情なんて物は無かったが身体の相性は中々良かった気がする。
ふた月前に付き合ってた女も突然と首を括った。6つ年上の年増女で俺みたいな若い男が好きな所謂“クソビッチ”って奴で、煽てて猫撫で声で強請れば何でも買ってくれる様な馬鹿な女だった。

此処まで来りゃ大体の予想はしていたが、終には先日まで付き合ってた女までも、昨日どこぞのビルから飛び降りた。然も揃いも揃って皆仲良く自殺ときたものだから驚きだ。自分と付き合った女が次々と死ぬだなんて、これが呪いのソレじゃ無きゃ一体何だというのだろうか。

ハァとキッドは自身が通う学園の古めかしい校舎屋上で、元のクリーム色が鉄錆付き赤茶色く変色した低い格子に頬杖を付きながら、薄い唇の隙間から悩ましげに小さな溜め息を吐き出した。

万が一の事故防止の為、学園の生徒は一切の立入禁止となっているこの場所は、唯一の出入口になっているドアにしっかりと鍵が掛けられている為、彼以外の出入りは無い。
キッドは学園から指定されている紺色の、制服のポケットの中にある無能な教員達から盗んだ鍵を弄ると今度は大きく溜め息を吐き出す。

ジジジッ、ジジジッ。
弄っていた出入口の鍵が入っている方とは逆側のポケットが突然携帯のマナーモードで小刻みに震えた。新着メール1件。携帯のディスプレイに流れてきた宛先人に、キッドは目を疑ってしまう。
何とはなしに胸騒ぎがしたのは概ね間違いでは無かった様だ。ディスプレイに流れてきたのは昨日死んだ筈の女の名前だった。

「………」

夕焼け空は嫌に赤い。
雲まで赤を帯びたオレンジ色に染まり、それはまるでキッドの気持ちを反映させたかの様に些か薄気味悪く思えた。

『愛してる』

訳が分からない。ただ一言それだけのメールで背筋を駆け上がる寒気に身震いが起こった。ガタガタと膝の震えが止まらないのだ。死んだ人間からの愛なんてキッドには到底受け止められる筈が無い。


「…おい、ユースタス屋?」

突然と背中に掛かった声にキッドの心臓がビクリと大きく飛び跳ねた。よく聞き覚えのある声に振り向けば、此方を伺う一人の男の視線と交わる

「トラファルガー…」

この屋上に自分以外の人が出入りする事が、珍しかった。出入口の前で立ち尽くす彼はキッドと同じクラスの生徒。キッドとは特別仲が良い訳でもなく、数回言葉を交わした事があるだけの仲。
トラファルガーと呼ばれた男は、何やら濃い隈の浮いた瞳をキュッと細めながら、ゆっくりと足を此方に進めた。

「こんな所で何してたんだ?それに、顔が青いな」

「別に…何でもねぇよ。それに、テメェの方こそ何で此処に居るんだよ。」

「ああ、珍しく此処の鍵が開いていたからな。一度入ってみたかったんだ、屋上」

キッドの前で足を止めた男は職員室から誰かさんが鍵を盗ってくれたお陰で念願の夢が叶ったと、ニコニコ笑いながら答えていた。
ムスッと、そんな男から空へと視線を移したキッドは辺りがすっかり日が落ちて薄暗くなっている事に気が付く。
大した会話を交わした事の無いこの男と二人きりの屋上は、何故だか無気味に思えた。

キッドはこの男が苦手だったのだ。これといって明確な理由は無かったがクラスの中でも浮いた存在のこの男が、男の視線が、どこか何時も自分に向けられているような気がしてならなかった。

「…なんだ、もう帰るのか」

「ああ…。」

気まずさから若干逃げ出すように早歩きで出口に向おうとするキッドの肩は、
ガチリと強い力で錆付いた鉄格子へと引き戻される。自分の肩を掴んだのは細っこい男の片手で、その軟弱な身体つきにそぐわない握力にキッドは慄いた。

「…なあ。なんで逃げるんだ?俺はただ、お前の事を愛してるんだ。ユースタス屋」

確かにそう言った男の瞳は暗かった。一切の光が無く、憐れな程に真っ黒だ。ガシャンッ!と派手な音を響かせ鉄格子に強打した背中が痛い。
ギシギシッと何かが軋む音が鮮明に聞こえた次の瞬間、俺の身体は錆付いた鉄格子の一部と共に屋上の足場から別れを告げた

後は、校庭のアスファルトへと向かい落ちるだけの俺を、ただ静かに見つめていた男の制服からは今クラスの女子達に人気のくまのストラップと、どこか見覚えの有るピンク色の携帯が覗いている事にキッドは気が付いた。
ああ…、そうだ。あれは確か、昨日死んだ女の携帯と同じものだっただろう、か?

一瞬、ほんの一瞬だけ俺を見下げる男の顔が綻んだ。辺りはもう真っ暗だったけれど、あれだけは見間違いでは無いだろう、少し寂しかった。

でも一時だけ世界がグルリと反転したのは妙に嬉しかった

ああ、やっぱり俺は呪われているのかもしれない。

20110509





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -