ペドフィリア

現代パラレル ショタキッド


小さな赤色を、高まる鼓動で追った午後4時頃

背中には真新しい黒色の少々不釣り合いな大きさに思えるランドセルを背負った幼年は 学校から途中までの帰路を共にしていた友達に小さな手のひらを左右に振りながら別れを告げる

「キッド君、また明日ね」

「うん。また明日!」

まだ第二次性徴を迎えていないその声は高く稚(いとけ)なさが滲み溢れるような甘い音色に物陰から幼年を伺うこの青年はグラリと一つ眩暈を覚えた。

小学校の校庭に植えられた桜木の花がポツリポツリと所々で咲き始めた数日前、
それは春の訪れと同じ。青年は幼年と出会ってしまった

校門の前に大きく立てられた白い看板には、達筆な文字で入学式と掲げられている。
その看板の周りはガヤガヤと忙しく賑わっていて青年は大学へと向かっていた足をピタリと止めた

何の変哲もない看板の前はまさしく今日この学校へ入学をするのであろう慣れない正装を着た子供と、その親類が隣同士に並び合い入学式の文字を真ん中に生涯一度きりの姿を写真に収めている。

「・・・・・・・」

その中には、一際青年の目を引く幼年が居た。赤色の長い髪を後ろで束ねたシックな黒色のスーツを纏う色白の女と、そんな女に比べて幾分か濃い赤色の髪を持った優男の真ん中で、どちらかと言えば女似の赤髪の幼年は、にこっと無垢な笑顔をカメラに向けている。

パシャリッ。たかれたフラッシュとシャッター音が幼年とその家族の時間を、永遠と色褪せない小さな写真に閉じ込めた事を現していた。

その後赤髪の幼年は、右手を母親に対して左手を父親に引かれながら桜木が対照的に植えられた校門を潜り抜け構内へと進んで行く。
それは絵に描いたような、幸せな暖かい家族だった。

青年はその一部始終をただ瞳に焼き付けながら、幼年とその家族の背中が見えなくなる迄その姿を瞳で追い続ける

この青年もとい、ローの幼年期には幸せな家庭はなかった

寧ろ赤髪の幼年とは、まるで真逆である。本来ならば目一杯愛されなければならない幼年期に、ローは実親から酷い虐待を受けて育っていたのだ

確りと物心付いた時から理不尽な父親に蹴り飛ばされ殴りつけられる日々続く

彼には実の母親も居たが、見て見ぬフリのソレに何かが出来る筈もなく、ローは小さいながらに全てを諦めたように、一向に止む気配の無い暴行を全身痣だらけの小さな身体で受けとめる日々が続いたのだ。思えばその時のローは丁度、今の赤髪の幼年と同い年の事だった。




友達に別れを告げ終えた幼年は、次第に小さくなる背中を見守った後手の平を下ろして帰路に着く。
もう慣れたであろう大通りの曲がり角の道は、まだ街灯が灯っていないために薄暗く、人気(ひとけ)が無かった。

其方にスタスタと小さな歩幅で歩む幼年の後を、ローはゆっくりとした足取りで、一定の間隔をあけて追い掛ける

すたすた、かつ、すたすたすたすた、かつかつ

幅の狭いその道では幼年とローの足音だけが重なり合って、不気味に響き渡っていた。

ローの目下には学年別に色分けされている、オレンジ色の帽子を被った幼年の姿がある

何も識らない彼が、幸せしか知らない彼が、自分とは何もかもが違う彼が、ほんの少しだけ手を伸ばせば届く距離を歩いているのだ。

「………‥っ‥」

突然バチリと脳内で火花が散り、目前が白と黒色2色の世界になった。ローが不意に伸ばしていた片方の手の平はしっかりと、黒色の真新しいランドセルを捕まえている。
幼年はピクッと肩を揺らしゆっくりと後ろを振り向いた。

「ねぇ、キッド君。お兄さん迷子で困ってるんだ。駅までどうやって行けば良いのか案内してくれないかな?」

「駅?うん、わかった!駅はね、こっちだよ」

幼年が振り向き見た青年の顔は“とても優しそうなお兄さん”の表情をしていた。しかしその表情が時偶困ったように歪むものだから、キッドは、このお兄さんは道に迷って困っているのだと幼い頭で理解して、ローの片手の平を引いたのだ。
勿論それが意図的に作られた表情だと、疑いもせずに。

手の平を握った儘、再び前を向き始めたキッドの後方で、ローの表情は暗く染まるのだ




小さな赤色を、高まる鼓動で折った午後4時半頃。

母親に似た赤色の瞳に黒い恐怖と涙を浮かべたキッドは、先程まで困っていたであろう“お兄さん”を見上げていた

口元を手の平で強く押さえ付けられていて、呼吸が上手く出来なくて息苦しい。
でもそんな事よりも一番は、お兄さんと繋いでいた利き手の右腕がグニャリとおかしな方向で曲がり赤く腫れ上がっていて、すごく痛かった。

「キッドは優しいなァ‥」

数分前までは困っていたお兄さんの顔は、今は楽しそうに笑っている事がキッドには不思議で仕方がなかった。

(あれ。教えてないのにどうして、このお兄さんは僕の名前を知っているのかな)

プツリ、小さな意識は音を断てて其処で途切れてしまう

額に脂汗を滲ませ、グッタリとしたキッドを抱き上げたローは、何時の間にやら灯り始めていた街灯の道を駆け出すように進んで行くのだった。
その際パサリと音を立てて、オレンジ色の帽子がキッドの頭上からスルリと滑り冷たいアスファルトの上へと落ちた




『小学1年の児童行方不明。学校途中の帰宅路には児童の物と思われる帽子が発見された。現場は人気の少ない脇道で目撃者は無く、警察は児童が何等かの事件に巻き込まれたとみて捜索をしている』

明くる日テレビから流れてきた音声と共に映し出された映像にはあの道と、モザイクがかけられた、見知った赤い髪の女の泣き崩れる姿。

ローは然程興味が無いと言った感じでテレビの電源をプツリと切ると自分の真横のタオルケットの上で眠る赤色の髪に静かに指を滑らすのだった


20110328




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