好きなものを好きだということは、なんて難しいんだろう。

ぼろぼろと雪みたいに涙を流すヒロトを前にして、俺はかける言葉を失った。「大丈夫か」「痛いのか」「どうしたんだよ」「なあ」ヒロトはどれにも首を振るばかりで、会話として成り立たない。堂々めぐりにため息よりも焦りが生まれた。

「ヒロト」
「…っ…、ぅ、」

円堂くん、他人行儀にそう呼ぶヒロトは、いつだって笑っていたのに。今ヒロトは、泣きながら、苦しそうに、名前を呼ぶのだ。俯いたヒロトの涙はすこし頬を伝い、何度も落ちそうになりながら結局顎で滴る。それを見つめて、やはり俺は沈黙してしまった。




「優しいね」

ヒロトはぴたりと泣き止むと、いつもの笑みを浮かべてそう言った。何のことかと首を傾げると、「円堂くんは」といっそう笑みを深くされる。ヒロトの言おうとしていることがわからなくて反対側に首を傾げると、ふふっとヒロトは楽しそうに声をあげた。

「優しすぎる、優しすぎるよ。ねぇ」
「ん?」
「君は夜空を見ただけで、星を見たわけじゃない。わかってるんだ」

だから、と自分の膝に話しかけて、それから漸くヒロトと目があった。不思議な髪の色とエメラルドを見とめて、ようやく目の前の人がヒロトだと認識できる。

それからヒロトはぎゅっと口元に力を入れて、唇を噛んだみたいだった。立ち上がり、俺が呆けているうちに二、三と歩き出してしまう。振り返ったかと思うと、不自然なくらい綺麗な笑顔だった。

「さよなら、」




110528
君には伝わらない





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