怖いんだ、と風丸は言った。乾ききった喉から絞り出したような、掠れて消えそうな声。怖い、今度はやたら潤んだ声を震わせながら言って、そのまま嗚咽を漏らす。円堂にはその表情が見えない。

これからも一緒にいようと言ったのは円堂だった。二人はいわゆる恋人という関係で、理由はそれだけだった。それだけで、充分だった。好きだからずっと一緒にいたい。何の疑いもなく、何の後ろめたさもなく。

しかし風丸は泣いた。円堂の家に泊まりに来ると、決まって静かに肩を震わせて泣いた。時折思い出したようにしゃくりあげるのが痛々しい。何が怖いのか円堂は何も知らなかったが、薄ぼんやりとした暗闇の中で輪郭だけは朧気に見えていた。ちょうど今の視界のように。だから、聞くこともできずにじっと風丸の影を見つめた。触れられない。


「…、すまない」
「風丸」
「どうしようもなくて」


わかるよ。口にはしなかったものの、円堂はそう思った。どうしようもなく、言いようもない不安があった。純粋だった想いが、複雑に絡まって汚れていく感覚。ただ好きだっただけなのに、ただ必要だっただけなのに。

円堂は風丸の肩に触れた。そこから二の腕、肘、と滑り、手を握る。雫で濡れていた。構わない、きつく握ろうとして自分の手が震えていることに気付く。風丸がその手に自分の手を重ねた。震えは、止まらない。


「俺は…風丸が好きだ」
「俺もだよ」


風丸の声は静かだ。対して円堂の声はいつにない迷いを孕む。それが却って風丸を冷静にさせた。


「俺は、いつかお前が夢を叶えるのに邪魔になる。わかるんだ」
「風丸っ…なんでそんな」


俺はお前と一緒にいられない。そう、はっきりと風丸は呟いた。今度は円堂の目頭が熱くなった。喉が千切れたみたいに痛い。下のまぶたが痙攣したみたいに動く。泣き出したいのをぐっとこらえた。


「俺はっ」


風丸がいればそれでいい、そう言いたいのに。そんなことを誓ってしまえば、風丸を縛ってしまう。共にあることが、息苦しくなる。それを本能的に知っていた。誤魔化すように握る手に力を込めると、風丸の手が冷たくなっていることに気付く。円堂の手もまた、ひどく冷たい。



110318
夜が明けまた深く沈んでゆく




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