影山、呟けば心の内のどす黒い感情を吐き出せる気がした。憎むべき存在。敬い崇めた存在。

誰よりも、義父よりも唯一の肉親である妹よりも近い存在だった。そして誰よりも遠い所に彼はいた。隣に立とうと、正面から向き合おうと何も変わらない。いつも俺を見つめ、そしてその向こうに別のものを見据えていた。要するに俺など眼中になかったのかもしれない。彼の欲したものは有望な選手だ。俺でなくとも構わない。

もう一度だけ、その名を呼んだ。俺にとって唯一無二の存在。総帥。かつてその声がやわらかく俺を呼んだことを思い出す。厳しい声だった、けれどもその期待に応えさえすればほんの少しやわらかくなった。錯覚かもしれない。これは妄言なのかもしれない。しかし俺が待ち望んだのはその暖かさだったのだ。信じ続けたものも。

決別した憎い恩師への追想は、空虚で冷たく、思わず二の腕に手を伸ばす。かつてそこに存在したキャプテンマークが恋しいわけではない。ただ、触れずにはいられなかった。その布をぎゅっと握りしめれば、爪が布越しに皮膚を引っ掻く。痛い。顔が歪んだのがわかった。



110317
やりきれない





戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -