もともと雪が嫌いだった。

どれだけ泥に汚れているように見えても、春になれば泥を残していなくなってしまう。それをひどく残酷だと思った。

雪が泥と一緒にいるのは見かけだけで、実際には相容れずに温かさが訪れると雪は一方的に離別してしまうのかと。

雪は綺麗で、薄情だ。
自分しか認めていないから泥を置いていく。

おいて行かれた泥がかわいそう。僕はそっと泥に触れる。ぐちゃりとしたそれは存外にも冷たく、泥が深く傷ついているのがよくわかった。


「僕はどこにも行かないよ」


泥はうんともすんとも言わなかったけど、口を動かした。それが象ったのは僕の名前で、僕は自分の服が汚れるのも構わずその頭を抱く。

大丈夫、もう大丈夫。小さな子供に言い聞かせるみたいにして、鼓膜に直接叩き込む毒。ずっと一緒。





110220
襟元は冷えない




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