目が合うと微笑みかけられることが苦しかった。きっと俺はその他大勢の一人でしかないのだと思い知らされるようで、その笑みに応えたことなど一度もない。フィディオは気にした風もなく、切り替えて行ってしまう。
なんて軽薄な男なんだろうと軽蔑してしまいたかった。

「やぁ、マーク」

ファストフード店で人を待っていると、そう声をかけてきて勝手に向かいに座った人間がいた。予想したそれとは違う声色に視線をやれば、ぎこちない苦笑いが見える。

「フィディオ…」
「今日は一人?待ち合わせかな」
「…一人だ」

本当は後者だ。しかし口先は暇つぶしに寄ったなどと出任せを紡ぎ出す。フィディオは安心したのか胸を撫で下ろし、人のいい笑みを見せた。

「よかった!俺は運がいいね、君と話す機会が欲しかったところなんだ」
「話…構わないぞ。何だ?」

言いながら、本来の待ち人が現れないかと冷や冷やしながら入り口を見やった。先方は時間にルーズなのでまだ来ないとは思うが、フィディオと鉢合わせた時にうまく取り繕える自信がない。嘘が下手な俺は今現在でさえ挙動不審だろう。

「ほんとはこんなところでする話じゃないんだろうけど、」

そう前置きしてフィディオはポテトをかじりコーラを飲んだ。言いにくそうにあーとかうーとか唸ったあと、苦めの表情で口を開く。

「俺、君に何か悪いことしたかな?」

君ってどこか俺に冷たいところがあるような気がしたからさ、気のせいならいいんだ。ただもし気付かないうちに何かしてたら申し訳ないなぁって思って。

手足がぴんとして動かなくなった代わり、俺は固唾を飲み込んだ。フィディオの嫌いなのかという心配とは正反対すぎる俺の本心を悟られたくない、真っ先にそう思った。

「それは、すまない…」
「どういう意味で?」
「誤解させて、悪かった」

次に思ったのは、今まで俺のつまらない保身のせいでフィディオを傷つけていたという事だった。プレーヤーとしても、人間としても尊敬できるフィディオに、我が身可愛さに不自然な態度を取り、誤解させて傷つけた。それはひどく身勝手で、ひどく独りよがりで、言葉にできないもやもやとした申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

すまない、ごめん、申し訳ないばかりを繰り返す俺に、フィディオはいいよと笑ってくれた。こちらこそごめん、またサッカーをしようとまで言ってくれた。




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