「いっつも思ってたんだけどさぁ。大木さんって何の本読んでるの?」


あれからちょこちょこと来るようになった旧生徒会室。結構居心地が良くて、遠くで聞こえる人の声を聞きながら過ごす昼休憩は何だか贅沢をしている気分になる。
向かいのソファで携帯をいじっていた尾浜君は、私が鞄から取り出した本を見て身を乗り出して来た。どうしようかなぁ。まぁ別に見せてもいいんだけど…。


「……はい」

「ん、…お、少女漫画か」


私が読んでるのは古い少女漫画で、お母さんが若い頃読んでいた奴だ。何か流行ってるような漫画でもないし、絵柄も古いし…恥ずかしくてブックカバーを掛けていつも読んでいる。お話はとっても面白いんだけどなぁ。


「ふーん…」


ペラペラペラと流れるように捲っていくから、多分読まないだろうなぁ。でも少女漫画を読む尾浜君…可愛いな…胸キュンしちゃったりしたら可愛いな……。尾浜君はパタン、と両手で本を閉じると私に手渡してきた。


「はい、ありがと」

「あ、うん…」

「これ、一巻ないの?」

「ある、けど。読むの?」

「うん」


こくりと頷いて手を伸ばしてくるから、私は鞄を漁って一巻を取り出した。手渡せば尾浜君はもうこっちを見てなくて、ソファにごろんと横になった。私も続き読も…。

お昼休みの、満腹で、皆の声は遠くで聞こえてて、入ってくる陽射しで部屋があったかくて…ぺらりぺらり、本を捲る音が響く部屋で………。


「…眠いの?休憩終わる前に起こしてあげるから寝てもいーよ」

「うん…ありがと……」


尾浜君の言葉に、甘えることにしよう…。ああ、ここは幸せだなぁ………。






「……んー…」


ぼんやりとする頭で考える。ああ、私お昼寝したんだっけ…。ページを捲る音は規則的に続いてて、尾浜君が居るんだってわかった。まだ眠い瞼をゆっくりと持ち上げる…あれ、尾浜君、いつの間にこっちのソファに来たんだろう…私寝てたのに狭くなかったかなぁ…。


「あ、起きた?続き読みたかったから勝手に鞄開けちゃった」

「うん…いいよ…。面白い?」

「うん。マジやばい。胸が痛い」


あ、尾浜君が胸キュンしてる…やっぱり可愛いな……。尾浜君は読み終わったのか、んーっと大きく背伸びをした。


「少女漫画って凄いなー。何あの胸にくるもの。俺ハマりそう…」

「ふふ…、また続き、持ってくるね…」


まだ頭はふわふわしてて、ぼんやりと尾浜君を見て笑った。


「尾浜君が、喜んでくれてよかったぁ…嬉しいな…」

「………あのさ、」

「?」


尾浜君は俯いてて、表情はよく見えない。どうしたのかなぁ。あ、顔上げ……


どさっ


「………」

「………」


何だろう…。尾浜君が私ごとソファに倒れ込んで、私の腕を掴んでて…あれ?私押し倒され…て…… 、!?眠気が吹き飛んで目を見開くと、尾浜君は私に顔を近付けた。し、真剣な顔、はじめて、見た……。


「あき」

「!?は、はい…!」


名前…名前…!!返事をするのが精いっぱいだ。どくどくと狂ったように動く心臓が、痛い。尾浜君は目を細めて、私の顎に手をかけた。


「なぁ、俺のものになれよ。好きなんだろ?」

「ひ、ぁ…う、…!」




「…なーんてね」


「え……!!?」


そう言うと、さっきまでの雰囲気が嘘みたいにけろっとした表情で尾浜君は私から離れた。心臓がまだバクバクとうるさくて、無意識に心臓を掴む。尾浜君はへらり、と笑うと可愛く首を傾げた。


「どう?少女漫画ごっこ。胸キュンした?」

「あ……し、した…です……」


嘘、嘘か……そうか…。ビックリしたぁ…。でも、ちょっとだけ残念だと思ってしまった…。私のよっきゅうふまん…!!



「なーに。続きしてほしいの?」

「!!いい、です!」



ばれた…!




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