「久々知君」

「何だ」

「尾浜君攻略の、特別授業を希望します。明日朝イチで近所で評判のお豆腐屋さん寄ってきます」

「よかろう座れ」


素早く鞄を置いて椅子に座った久々知君に、深々と頭を下げた。


「何が聞きたいんだ」

「私は…尾浜君のおもちゃになってると思うんです。どうしたらもっと対等に見てもらえますか?」


今日のお昼を思い返して顔が熱くなる。あんな……考えるのはやめよう。久々知君が不思議そうに見てるし。


「なんだか、何してもあしらわれる様な気がする…」

「それは、勘右衛門からしたら大木はまだ勝手に言い寄ってくる奴の一人だからな」

「そ、そうか…」


尾浜君、モテるもんなぁ…。他の女の子にも同じような事してるんだろうなぁ…。ズキンズキンと心臓が痛くなる。


「でも、」

「でも?」

「勘右衛門は普通なら言い寄ってくる奴は片っ端から手を付けて終わり」

「私はそんな事ない…」

「と言うことは、やっぱり大木は他とは違うんじゃないか?」


そう…なのかなぁ。そうだと嬉しいけど…私にドキドキする尾浜君…想像出来ないなあ…。


「女として見られてないって事はないかなぁ」

「勘右衛門は性別が女なら大体いけるって言ってたぞ」

「そ、そんな名言…」


いや、だけどその稀な女の子が私だったら…可能性は無くないし…。
机にごちっと頭を着けると久々知君はぺしっと頭を叩いた。久々知君…力加減ないなぁ…痛い…。


「だったら、俺で試してみるか?」






「あの、やっぱりやめない…?」

「何で。勘右衛門に女として見られてるか知りたいんだろう」


そう言って久々知君は仁王立ちする。
久々知君にアプローチしてみてどうか判断するって言うけど…尾浜君にもそんなのした事ないのに…いや、久々知君は私に協力してくれてるんだし…よぉし、やるぞぉ…!えーと、アプローチって…何すればいいかな…とりあえず告白してみようかな…。


「久々知君」

「ん」

「久々知君の事が…好き、で、す…」

「………」

「わ、私の事、女の子として見れませんか…?」


は、恥ずかしい!!
予想以上に恥ずかしくて、思わず声が震える。絶対に今かおあかい…久々知君は何も反応せずにずっと黙ってるし…。恥ずかしすぎて涙が滲んで久々知君がぼやけた。もう、泣きたい…!

ぐいっ


「……久々知、くん」

「何だ」

「あ、あの、なんで…」


泣きそうになった時、久々知君に勢い良く腕を引っ張られて抱き締められてしまった。頭を抱き込まれて顔が上げられない。久々知君の胸にぴたりとくっついたまま私は固まった。…久々知君の心臓…すごくゆっくりで何か落ち着くなぁ。でもこんな事してもドキドキしないんだ…。


「あ、あのぉ…」

「あ、悪い。何かこうした方がいい気がして…」


久々知君の表情は相変わらずの無表情で、変化はない。久々知君の女の子の噂は聞かないけど、尾浜君と並んで喧嘩は強いって聞くし…やっぱりこういうのも馴れてるのかなぁ…。


「どう…だった?やっぱり全然そういう対象としては見られないかな…」

「いや、そんな事なかった」

「ほ、本当に?」

「ああ。あのままキスしてもよかったけど」

「えっ!?」

「困るだろうから、やめとく」


そう言って久々知君は瞳を細めた。…もしかして、これは久々知君の笑顔…なのかな…?うーん、よくわからないけど…何かそんな気がする。もしそうだったら、久々知君の新しい一面を見れて嬉しいなぁ。


「しかしお前、顔赤いな」

「久々知君があんな事するからだよ…」


だけど女の子として見てもらえるのはわかったから、やってよかった…のかな…?

教室の外に誰かが居たことなんて気付かずに、私はそんな事を考えていた。




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