「勘ちゃんおはよー!」

「おはよー」

「お、おは、おはまく、んおはよ…」

「んー、おはよー」


今日は勇気を出して私から挨拶をした。
尾浜君は立ち止まることなく行ってしまったけど、ひらひらと手を振ってくれた。よし、挨拶出来た…。ぐっと拳を作ると鞄の中を思い返す。
昨日見付けたドラえもんの絆創膏。尾浜君持ってるかなぁ。あげてみてもいいかなぁ。うざがられるかなぁ…いや、でもこの前は尾浜君から絆創膏くれたし、私からあげても全然変じゃない…よね?尾浜君は鞄を置いて教室を出ようとしていた。今は一人だ。よし…目標、ほそく!


「尾浜、君!」

「大木さん。どうしたの?」

「あ、あの、これ…」

「…あー、」


ドキドキと絆創膏を差し出すと、尾浜君は真ん丸い目を私の手に集中させた。指先が緊張で震える。尾浜君を見ると、にへ、と今日も愛想笑いを見せた。


「いらない」

「………え?」

「うーん?俺は大木さんみたいに絆創膏集めてる訳じゃないから、持ってるのだけで十分だよ。じゃあね」


あ…、うざがられ、た…。

教室を出て行った尾浜君を呼ぶ声が廊下から聞こえてくる。私は俯いて絆創膏をぎゅっと握った。そっか…尾浜君は私がキャラクターのやつ集めてる変な人と思ってるからくれてたんだもんなぁ。怪我もしてないのにそんなに沢山いらないよね…。
とぼとぼと自分の席に戻るとどこからかクスクスと笑う声が聞こえて、もしかして私の事笑ってるのかなぁって、これじゃ被害妄想だ。穴があったら入りたい…。頭を抱えていると机の隣に誰かが立った。


「大木」

「あ…久々知君」


久々知君は鞄を持ったまま私を見ていて、今来たのかな…挨拶、くらい、した方がいいかな…。


「お、おはよ…」

「もしかして勘右衛門の事好きなのか?」


無視…無視だ…。久々知君は尾浜君とは違う感じで何考えてるのか読めなくて、何か恐い…あれ、ていうか今何て言っただろう…。久々知君をじっと見ると、もう一度、少し詰めよって聞いてきた。


「勘右衛門の事が好きなのか?」

「…え!?あ、ぅ、その…」

「そうか、わかった」


いや、まだ何も言ってないよぅ…。
久々知君は一人で納得して自分の席に行ってしまった………何だったんだろ…。ともすればすぐに戻ってきた久々知君は私の前の席に座るとこっちを向いた。


「勘右衛門は押されると逃げるぞ。なるべく受け身の方がいい」

「あ、そうなんだ……久々知君、あの、どうしてそんな事教えてくれるの?」


私は今まで久々知君と喋った事もないし。なのにどうしてアドバイスをくれるんだろう…。久々知君は腕を組んで少しの時間上を見上げた。すぐに戻ってきた。久々知君の目は大きいなあ…。


「俺は、勘右衛門にもっと落ち着いて欲しいんだ。だからだと思う」

「思う…の?」

「ああ。自分でもよくわからないな。だけど、勘右衛門が押されて逃げるのは相手が苦手だと思うからだ」

「に、苦手なら…ダメじゃん…」

「まぁ聞け」


追い撃ちをかけるような言葉に頭を抱えると、久々知君は左手を突き出してストップをかけた。


「苦手だと思うのは、いつもみたいに愛想を振りまくだけでは対応しきれないと思うからだ。苦手と言うのは逆を言えば本気になれるって事だ」


じゃあ、つまり……。
いつもの尾浜君なら愛想よく適当にあしらうだろうけど、私が苦手だと感じたから逃げたって事で…?
苦手って事はうわべだけで接してても通用しないと思ったから…?そんな所あったかな…尾浜君私がうざかっただけじゃないのかな…。でも鉄壁の愛想笑いを私は突破出来るって事は……。


「私、尾浜君に好きになってもらえる可能性があるって事?」

「そうだな」


久々知君がふっと笑って、私は瞳を輝かせた。うわぁ、うわぁ…。久々知君が言うってことはきっと本当だ。本当の尾浜君、見たいなぁ。私に、そのチャンスがあるんだ…。



「ただ」

「ただ?」

「虫以下に嫌われる可能性もあるんだがな」



久々知君が言うってことはきっと………考えるのやめよう…。




back
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -