「大木さんおはよー」
「あ、尾浜君…おはよう…!」
あれから何となく尾浜君は私を見掛けると声を掛けてくれるようになった。う、嬉しい…。尾浜君、今日はおでこにスティッチ貼ってる。あれは誰かに貰ったのかなぁ。女の子だろうなぁ…悶々としてしまう。
「あ、これ一枚あげようか?」
「え、あ、あの……ありがとう」
じっと絆創膏を見つめていたらこれ、とおでこを指差され、戸惑っている間にへらりと笑った尾浜君にはい、とスティッチを手渡された。うう、欲しそうに見てると思われた…。
「これかわいーでしょ。おもちゃ屋さん行ったら売ってたんだー」
「そ!う…なんだ」
「あははー大木さん興奮しすぎ。じゃーね」
「あ…」
私が思わず反応してしまったのは誰かの貰い物じゃなかったって所だったんだけど…ただのキャラクター絆創膏マニアだと思われてしまった……えへへ、今日も喋れちゃった…。
「あ…、尾浜君」
授業が終わって、いつもの様にうろうろと徘徊していた。教室とは離れてて人通りのない校舎の端で、廊下に出されたままの椅子に座っている尾浜君が居た。どうしたんだろう…?声を掛けてもいいのかなぁ…でも考え事中だったら邪魔になるし、うーん…やっぱり邪魔になったらいけないし、ここは気付かれる前にそおっと引き返してしまおう…
キュッバタッ!
「ん?あれ大木さんじゃん。何してるの?」
「あ、こんにちは…」
「こんにちは。さっきまで、一緒の教室居たけどね」
上履きの爪先がつっかえて何もない所で転んでしまった…痛い…。尾浜君は私の所まで来てくれて、はい、と手を差し出されたのでやっぱり反射的に掴まった。
「よくこけるなぁ。今何してるの?」
「バスが空くのを待ってるの」
「ふーん…。じゃあ暇だ?」
「うん…?」
尾浜君は携帯をいじってうんうん頷きながら私に質問をする。操作の終わった携帯をポケットに入れるとへらりと笑顔を作った。あいかわらず愛想笑いだなぁ。でもかわいいなぁ。
「じゃー少し俺と遊ぼうよ」
「遊ぶって…何して?」
「ちょっと話すだけだよ。今兵助待ってて暇なんだー」
そうかー。一体どのくらい暇なんだろう。私は帰っても特に予定はないし、どうせなら尾浜君といっぱいお話したいなぁ。
階段に移動して腰掛けた尾浜君は、ぽんぽんと隣を叩いた。隣に座っていいのか…き、緊張だなぁ…。どぎまぎとしながら尾浜君の隣に座る。う、近すぎて、横向けない…。でも、尾浜君がじぃっとこっちを見てるのは分かる。頬杖ついて、かわいいだろうなぁ。見たいなぁ…。
「大木さんてさ」
「うん」
「俺の事好きだね」
「うん!?」
「あはー、わっかりやすー」
尾浜君の、質問というよりは確認めいた響きの言葉に勢いよく横を見れば可笑しそうに笑われた。両手で頬を隠す。絶対に真っ赤だ…。
にゅ、と尾浜君の腕がこっちへと伸びて、私を通りすぎた。私の後ろは手すりの壁があって、尾浜君は手をその壁について、この状況は、この状況は……顔がボンッと赤くなる。
「大木さんてさー、キスした事ある?」
覗き込むように見つめられて、ドキドキしすぎて声にならない。口をぱくぱくとさせながら首を振るのが精一杯だった。
「俺としてみる?」
「………」
「そんな顔してると本当にしちゃうよ?」
「………」
「拒否しないんだ。ふーん…」
どんどん近くなる距離にどうすればいいのか分からなくてじっと見つめ返していたら、尾浜君は片手で私の顔を持ち上げた。ち、近…も、くっつく……。
〜♪
「はーい。終わった?」
突然鳴り出した尾浜君の携帯。尾浜君はさっさと体を離して立ち上がった。
……動揺がまったく見えないや…やっぱりこういう事し慣れてるんだろうなぁ…。電話を終えた尾浜君は鞄を掴んで手をひらひらと振った。
「兵助がもう玄関で待ってるって言うから行くね。大木さんバイバイ」
「バイバイ…」
尾浜君は振り返ることなく行ってしまった。キスされなくてよかった…はずなんだけど、
何となくガッカリしてしまった…。あう、私のはれんち…。
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