「お、お邪魔します…」

「はーい、どーぞー」


尾浜君のお家に来るのは…これで三回目だ。だけど全然慣れないよ…バクバクと心臓がうるさくて静かな家の中では聞こえてしまうんじゃないかと思う。


「俺飲み物持ってくからさ、先に部屋上がってて」

「あ…」


リビングの扉を開けて背中を向ける尾浜君の制服を思わず掴む。尾浜君はきょとんとした顔で振り返って首を傾げた。相変わらず…かわいいなぁ。


「どしたの?」

「あ、あの…」

「?」

「わ、私も…一緒に…」


少しでも離れたくない。なんて口には出せないから制服を掴む手にきゅ、と力を込めてうつむいた。だけど尾浜君にはそんな事言わなくてもばればれみたいで、くつくつと笑う声が聞こえて頭を撫でられた。


「いーよ、じゃあ好きな飲み物選んでね。俺持って上がるから」

「……う、うん…」

「あきー、返事は目を見てしましょう」

「ご、ごめ……、!!」

「あは、隙だらけだねー」


顔をがばりと上げるとすかさず尾浜君の顔が近付いてきて唇を押し付けられる。にやりと笑う尾浜君はかっこよくて……あ、う…かおあつい…。






「さーて、勉強でも始めるかー。あきどこがわかんないの?」

「よろしくお願いします…あのね、数学のこの問題なんだけど…」

「うーん、一回解いてみてくれる?」


今日は、テスト週間に入ったからと尾浜君に勉強を教えてくださいと頼んだ。尾浜君は、頭いいから…弱点がないなぁ。
一度解いてノートを差し出せば、尾浜君は目で追ってああ、とシャーペンをノックした。


「ここの式が間違ってるんだよ。これはこっち」

「あ、そっか…」

「そー。これを入れてやるとここがこうなるから…」


尾浜君のシャーペンを持つ指に思わず目が行く。勉強を教えてもらってるんだから、そっちに集中しなきゃ…。でも、尾浜君の手…こうまじまじと見ると私のとは全然違うんだなぁ。骨ばってるってこういう事なのかな……触ってみたいな……ってだから今は勉強をするの!


「……ってわけ、わかった?」

「あ、う、うん…」

「そー?じゃあもう一回やってみよー」


はい、とノートと教科書を渡されてシャーペンを持つ。え、ええっと…まず式が間違ってたからこれをこうで……だ、だめだ…話を聞いてなかったからわからない…!折角尾浜君が教えたくれたのに…。心の中で頭を抱えていると横から尾浜君の手が伸びてきてそっと手を取られた。


「…?」

「んー、あー。なんか…ごめん、集中できないや。少し休憩してからでもい?」

「あ、うん…」


指先を撫でながら呟いて、顔を上げた尾浜君は何考えてるのかよくわからない。だけど、集中できなかったのは、私もだし…頷くと指先だけ動かしてこっち来いされた。


「どうしたの?」

「だーめ。もっと近くに来て」

「え?もっと…」

「そう、もっと」


もっと、と言いながら尾浜君は胡座をかいた足の上をポンと叩く。そ、れ…それは…。思わず顔が熱くなる。だけど嬉しくて、ずりずりと正座のまま移動すると胡座をかいた足の上に膝をちょんと乗せた。恥ずかしくて顔が見られない。目を下に向けると尾浜君の手が見えて、そっと持ち上げた。ゴツゴツしてて、固い。骨と皮だけの様な手だなぁ。それは言い過ぎだけど。指先も少し平べったくて、だけど指は長い。人差し指の爪からゆっくりなぞっていると尾浜君の手がぴくりと揺れた。


「あ、ごめんね。私の手と全然違うから…」

「んーん、それ俺も思った」


優しく笑う尾浜君の表情に鼓動が速くなる。そっか、同じ事…嬉しいなぁ…。
意味もなくぎゅ、ぎゅ、と手を握っているとやんわりとほどかれて、その手を脇の下に入れられる。ひょい、と簡単に持ち上げられて尾浜君の足の上にまたがるように座らされてしまった。


「あ、あの…」

「んー?」

「す、少し、恥ずかしい…」


見下ろす様になった尾浜君の顔はそれでもやっぱり近くて、それに尾浜君の顔が私の胸に当たるようにぎゅうと抱き締められてて…。し、心臓の音聞こえてないかな…。尾浜君胸が大きい子好きだったらどうしよう…。腕も一緒に抱き締められてるから顔を隠せなくて、隠そうと顔を下げたら尾浜君の顔にぶつかっちゃう、し…じわり、と涙が滲むと、尾浜君の顔はにっこりと綺麗な笑顔になった。


「んー、じゃあ、恥ずかしい顔もっと見せて」

「はず…、!?!!?」

「あれ、泣いちゃった」


それでも尾浜君はにこにこ笑ってて、ちっとも離れてくれないし、腕の力が少しだけ緩んだから腕を抜いてぎゅう、と尾浜君の頭を抱き締めた。


「いじわる…」

「(これ顔見られないために阻んでるつもりかなぁ。俺としてはなーんの損もないけど…)」

「いじわるな尾浜君なんて…尾浜君なんて…」

「…きらい?」

「…………す、き」


冗談でもやっぱり言えなくって、結局本当の事を言ってしまった。私って、尾浜君の事を好きすぎるよ…。
尾浜君から何の言葉も帰ってこないから腕の力を弱めて顔を覗こうとしたら、ぐるんと視界が回って次に見えたのは天井と尾浜君だけ。鼻と鼻が触れて、ほんの少しだけ、唇に何かが当たる感触がある。


「お、おはまくん…」

「…なんでそーゆー事ばっか言うかなぁ」

「ご、ごめんなさい…」

「あー、違うからね。カワイイって意味」


か、かわ…。恥ずかしくて何て言えばいいのか言葉が出てこない。尾浜君はちゅう、とキスをして、そのままなぞるように耳まで唇を移動させた。ビリビリと何かが走る。


「…っ、…!!」

「もう少し待ってあげるけど…早く全部俺にちょうだいね」

「は、はひっ…!?」


尾浜君の声が色気、が何かすごい、で、声を裏返して返事をすると上体を起こして手を付いた尾浜君がにこっと笑った。 ゆっくりと手を取られて床に縫い止められる。


「それまではちゅーだけで我慢するよ」

「う、あ、」

「あ、えっちいちゅーはするよ?」

「……!!?」


近付いてくる顔を止める術を私は知りません…。




2013/10/23
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