カラオケ店を出ると空は夕焼け色に染まっていた。西に傾いた太陽がまぶしい。
皆はこれからファミレスに行くって言うから、私は帰る事を久々知君に伝えた。


「送って行こうか?」

「ううん、大丈夫」


久々知君、ファミレスでバイトしてる子からメニューに新作の豆腐があるって聞いて目を輝かせていたし。首を横に振ると少し嬉しそうな表情になった。久々知君は、豆腐に関しては本当にかわいいな…。
先頭に居る竹谷君が口元に手を当てて大声で叫んだ。


「おーい次行くぞー!」

「…じゃあ、またな」

「うん」


「勘ちゃん一緒に座ろーね!甘いの好きでしょ?私とケーキ食べようよー」

「うーん俺はぜんざいの気分…」

「じゃあぜんざいとケーキ半分こしよ」

「乗った」


ぞろぞろと移動を始めた皆に、久々知君に手を振って促すと小さく手を上げて背中を向けた。一番後ろに尾浜君達が居て、二人の会話が聞こえてくる。手を繋ぐ二人の姿に針山みたいになった胸にまたずぶりと刺さる。
痛い。けど、でもこれは悲しいとか寂しいとかじゃなくて、

悔しいって、嫉妬だ。


「今度ね、クレープ食べに…っきゃ、なにっ?」

「…あき」


一番最後を歩く二人の手を掴む。女の子は驚いて目を丸くして手を引っ込めた。尾浜君は無表情で、何を考えてるかよくわからない。すこし、恐い。


「尾浜君を…返してください」

「はぁ…?」

「尾浜君に…さわらないで、ください」

「何言ってるの…、勘ちゃん」


「尾浜君は、私のだから、取らないで」


真っ直ぐに目を見て言うと、眉を寄せて苦い顔をされる。変な奴って思われてるんだろうなぁ。


「勘ちゃんは物じゃないんだから貸し借りみたいに言うの失礼じゃない?」

「…俺は誰かの物になった覚えないけど」

「あ、そうか…」


そう言えば、私は尾浜君のものになったけど…私はそんな事無いんだった…。尾浜君をじっと見る。やっぱり何を考えてるか、よくわからない。


「尾浜君。私のものになってください」

「またそういう言い方する!」


尾浜君は、守ってくれるって言ったから。私は…私は……。


「尾浜君を、信じるから。だから…」

「…意味わかんない。勘ちゃんもう放っといて行こうよー」

「あー、うん…悪いけど、帰ってくれる」

「………」


やっぱり、
私じゃダメなのかなぁ。うつろな目のまま尾浜君は私を見つめて言うから、ぺこりとお辞儀をして来た道を戻ろうとした。
だけどすぐにグイッと腕を取られて引き止められる。


「…勘ちゃん?行こうよ」

「え?だから、帰って。俺はこいつに話があるから」

「え…?」


尾浜君を見上げると、女の子に向かってハッキリとそう言った。


「な…何言ってるの?そんなの置いといて行こうよ!」

「君にそんなの呼ばわりされたくないなぁ。あと俺が駄目だったからって兵助に手出さないでね、鬱陶しいから」

「ちょ、ちょっと…酷い!」

「あき、帰んないみたいだから俺達が行こう」

「あ、は い……」


腕を引っ張られるまま尾浜君に小走りで着いて行く。女の子を一度振り返ろうかと思ったけど、やめた。悪いとは、思うけど…返したりは出来ないから。







暫く何も言わずに歩いていたけど、行きに通り過ぎた公園を見付けると尾浜君はズンズン中に進んで行った。さっきまで明るかった空も歩いている内に暗くなって、だからか公園には人が居なかった。腕がぎゅっと握られてるから手先がずぅんと重たい…血が通ってなさそうだなぁ…。

石で出来たベンチがあって、そこに着くと肩を押して座らされる。ひんやりと石が冷たい。隣に尾浜君が座って、脚に肘をついて顔を下げた。離された手に一気に血が流れてじわじわと手が痺れた。


「…あき」

「うん」

「……あー…」


名前を呼んだまま言葉が続かない。尾浜君は目をさ迷わせていて、言葉を探してるみたいだった。ゆっくりと尾浜君の手を取ると両手で握る。目を見つめてもう一度言った。


「尾浜君、私のものに…むぐ」

「あー、いい!分かったからっ」


言おうとしたけど、慌てた様に口を反対の手で塞がれて言えなかった。もしかして、嫌だったかな…。不安になって眉毛が下がる。尾浜君は私の顔を見て困ったように笑った。


「違うよ、嫌だったんじゃないから。ただ、あー…なんつうか、俺の考えてた通りにはならなかったって言うか…」

「………」

「あきには、本当に思い通りになんないよ。降参だ」

「………」

「っうわぁ!……あき、」

「ご、ごめん…」


手のひらと私を交互に見つめる尾浜君は相当驚いているみたいで目を真ん丸くしていた。べ、と出した舌をしまうと、握ったままの手に力をこめる。


「し、知ってる?体の末端は敏感だって…」

「…それ、」

「暫く何するにも、私を思い出して、ください…」

「………」


「尾浜君、好き。私のものに、なって」


もう一度ありったけの想いを込めて伝えた。まだ何も答えを貰ってないのに感極まって泣いてしまいそうで、震える手に気付いて尾浜君の手を離した。そうしたら引っ込めようとした私の手を尾浜君が捕まえて、暗くてもわかるくらい尾浜君の顔が赤い。


「ああもう…!そんなのどこで覚えてくるかなー…!」

「おは…っ」


苦々しい顔をした尾浜君に腕を引かれて抱き締められる。私も背中に手を回したかったんだけど…すぐに肩を押して距離を空けられた。顎をガチッと掴まれて顔の距離が近付く。真剣な顔で見つめられて、呼吸が、止まる。



「あき、好きだ」


「…!う、ぅぇ…!」

「…そーゆー事だから、俺の事大切にしてね」


ぶわりと限界が越えて泣いてしまった私に、最後は少しおどけて尾浜君は言った。何度も頷くと優しく笑って涙を拭ってくれる。


「た、たいせ、つに、しますぅ…!」

「ぶっ、なんかムード無いなー」

「ひ、ひどいよぉ…」


みよん、と頬っぺたを伸ばされて遊ばれる。私は真剣なのに…!なかなか泣き止めなくて、ずっと涙を拭いてくれてる尾浜君は、思い出した様に眉を上げた。


「あっ、そーだ」

「っひ、……?」

「あき、まーた兵助にキスされてたろー」

「え…!?」


み、見られてた…!?驚いて涙が引っ込んだ。人体の不思議。そんな事言ってる場合じゃない。むすっと眉を寄せる尾浜君は私の唇に人差し指を当てる。


「あ、あの…」

「まー俺も酷い事したし、怒んないけど…消毒、するからな」

「……!!!」

「もう拒否したり、しないよね?腰砕けにしてやろー」

「あ、の…っ」


愉快そうに近付く尾浜君の腕が腰に回って逃げられない。沸騰しそうに頭が熱くて、尾浜君の胸でぎゅっと拳を握った。


「や、優しく…して、」

「………りょーかい」

「なんっ…ー!!」


何故か据わった目で笑われて、抗議しようとしたけど間に合わなかった。



…ちゃんと、優しくされました。




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