私の膝には黄色いポケモンがぺたりと貼られている。昨日の帰りに薬局で買ったものだ。尾浜君がくれたのと同じやつがあったけど、次の日も同じのしてると思われたら嫌だし…キャラクターものの絆創膏、可愛かったから自分でも買ってみた。けっこう気に入ってる。
尾浜君、まだ来てないな。昨日のお礼、言った方がいいのかな…。そわそわと人が入ってくる後ろの扉を横目で見ていたら…来た!尾浜君…あれ?


「おはよー」

「勘右衛門、おは…どうした、そのおでこ」

「あー、朝から喧嘩吹っかけられて、石投げられた。無論ぎったんぎったんにしてやったぜー」

「大丈夫か?保健室行ってきたらどうだ」

「大丈夫だよ。絆創膏持ってるし…あ、ないや。昨日あげたんだった。ま、いーか」


尾浜君、おでこが擦れて真っ赤になってる。痛そう…。大丈夫かな…。それに絆創膏、私にくれたのが最後のやつだったんだ…。鞄の中の絆創膏を一度見た。よ、よぉし…。


「お、はまくん」

「ん?あー、大木さんおはよー。傷大丈夫?」

「こ、れ!」

「あ、ピカチュウ」


椅子に座っている尾浜君を見下ろして、握り締めた拳をぐっと目の前に突き出す。まんまるい目を更に丸くした尾浜君が手を出すと、ぽとりと落ちる絆創膏。あ、手汗でしめってたらどうしよう…大丈夫かな…。


「昨日はありがとうございました。傷は大丈夫。じゃあ、」

「ちょっと待って」


壊れたロボットの様な動きで自分の席に戻ろうとするとガシッと腕を掴まれた。驚いて振り返る。久々知君も不思議そうに見てる。尾浜君のじいっと見つめる視線に耐えられない…顔が赤くなっていくのがわかる。尾浜君はへら、と笑顔を作って絆創膏を私に手渡した。


「大木さん、貼ってよ。あのおまじないもちゃんとしてね」

「!じ、自分でやって…」

「鏡ないとちゃんと貼れないし、あれは人にやって貰うから効くんだよ」

「久々知君に…」

「えー、俺はかわいー女の子にやってもらう方がいいな」


よろしくー、って尾浜君は片手で前髪を上げて顔を上向かせてくる。おずおずと絆創膏を剥がすとぺたりと貼った。よし、綺麗に貼れた…えーと確か、両手を被せてゆっくり、ゆっくり…。


「………」


痛くならないように、ふうーと息を吐く。なんか、この行為は相手の事を気にしてするから優しくできるなぁ。だから尾浜君、昨日優しい顔してたのかな。手を離すと尾浜君はずっとこっちを見てたみたいで驚いた。もしかして私は人前でとんでもない事をしたんじゃ…ていうか近、い…。


「…大木さん、順番逆だよー」

「え、すい、ません…」

「また謝ってる」


へらりと笑った尾浜君。やっぱりいつも通りで作った笑顔だなぁ。女の子にこんな事されてもちっとも動揺してない。赤くなる顔を素早く背けて自分の席に戻ると、遠巻きに様子を見ていた人達が尾浜君に寄って行った。


「尾浜ー、今の何だよ。大木とどういう関係?」

「んー、どうでしょー」

「教えろよー!」

「お前教室で何やってんだよー!」


「何、今の…」

「大木さんって尾浜君と仲良かったっけ?」


あちこちで囁かれる会話にばたっと机に顔を伏せた。私、尾浜君ファンに嫌われたらどうしよう…。耳まで熱い。HRまでに引くかな…。


「大木さん」

「!…おはまく、」

「絆創膏の予備貰ってもい?」


突然すぐ側で尾浜君の声が聞こえて顔を上げると、視界いっぱいに尾浜君の顔が映った。驚いて体を起こすと、前の席に座って机に顔を乗せた尾浜君は首を傾げてそう言った。か、わいい、なぁ。好きだと気付いてしまうと余計かわいい…。
鞄を漁ると見付け出した絆創膏を尾浜君に押し付けた。


「ありがとー。大木さん、キャラクターの絆創膏って何か意外だなー。俺も好きなんだー」


知ってます。真似しました。


「俺は断然サンリオ派だね」

「…私はかっこいいのがいい」

「そっかー。変わってるなぁ」



とも言えず、変な奴だと認識されてしまった…。




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