「おい、大丈夫か」

「え?」

「おい、大丈夫か」

「えっ??」

「…もういい」

「ご、ごめんね…」


久々知君の声が聞こえなくて聞き返したけど、なにか伝えようとしたのを諦めたのはわかって思わず謝る。

竹谷君達に付いて行って到着したのはカラオケ店だった。学校から歩いて10分。他にも同じ学校の制服の人達が居た。個室の中は暗くて、ぐわんぐわんと響く音楽で脳が揺れる。
尾浜君をちらりと見ると、角っこに座ってさっきの女の子と向き合うように座っていて…。女の子が尾浜君の膝に手を乗せていて、さっきから何度も見ているんだけど、悲しくなって目を伏せた。

やっぱり、来るんじゃなかった…。カラオケなんて小学校の時に親戚で行ったきりだし、私みたいなのは浮いているなぁ。それに、久々知君だって女の子に囲まれていて、何とか私の隣に座ってくれたけどやっぱり邪魔している気分になる。


「久々知君、私ちょっと外に行ってくる」

「ああ、わかった」


大声を出しても伝わらないと思ったから久々知君の耳に手を当てて話すと頷いてくれた。よかった、伝わったみたい。隣の女の子が怖かったからすぐに扉前まで移動すると、私の空いたスペースにすぐまた別の子が座っていた。




「ふぅ、疲れた…」


何にもしてないんだけど、何にもしてないから疲れるという事もある。カラオケ、何時までなんだろう。このまま帰ったらダメかなぁ…。尾浜君は、最初にお店の前で私と目が合ったけど、あの子と喋っていて何も言わなかった。やっぱり、あの子が好きなのかな…私はもう、「こんなの」くらいでどうでもよくなっちゃったのかな…。膝を抱え込むと、フロントの方から女の子の声が聞こえてきた。


「さっきの部屋見た?鉢屋君達もカラオケ来てたね」

「見たー、いいよねー凄い豪華なメンツだった」


会話からして、同じ学校の子達みたいだ。フロント横にドリンクバーがあったから、ジュース取りに来たのかな。


「最近さ、休憩のたんびに尾浜君の所に来る子いるじゃん、やっぱ居たよ」

「でも尾浜君と四組の転校生付き合ってるんでしょ?」

「えっ、転校生っておとといだよね?来たの…」

「あれ、私は女子テニスの部長と付き合ってるって聞いたけど」

「いやいや、私は三年の食満先輩の彼女取っちゃったって聞いたよ」


しかし尾浜君って相変わらず凄い噂だなぁ。今の様子からじゃ、仕方ない気もするけど…。


「…そう言えばさ、大木さんと尾浜君は一体どういう関係だったのかな」

「さぁ…尾浜君がからかって遊んでたんじゃないの?」

「やっぱりそうだよねー。あーあ、大木さんもカワイソ」


突然自分の名前が出てきた事にどきっとする。意味もなく回りを見渡した。よし…、誰も居ない。無意識に聞き耳を立てていると、でもさ、と誰かが言った。


「久々知君とも何か仲良いしさ、尾浜君達好きの派手な子が今にも手を出しそうだったし…危なかったよね」

「ねー。いつやられちゃうかなぁーって思ってたら尾浜君があの子らの方に行っちゃったからさ、何にも起きなかったけどねー」

「まぁ結局遊ばれてたんなら可哀想に変わりないけどね」

「確かにー」


段々と遠くなる会話を呆然と聞いていた。それ、じゃあ……最近全然喋れなくなって、旧生徒会室にも来なくなって、前よりもたくさん遊んでいる尾浜君。もしかすると、


「わたし、のため、なのかな…」


そんな、好都合な解釈でいいのかなぁ、だけど、もし本当にそうだったら……。尾浜君の、優しく笑う顔を思い出す。


「そうだったら……すごく、嬉しい…」







皆の所へ戻ると、開いた扉にちらりと尾浜君が顔を向けた。さっき聞いたことが頭に残っていて、もし本当だったら…じっと見つめていると、尾浜君は目を瞬かせてから柔らかく笑ってくれた。

ああ、やっぱり…好き、だ。


「大木、ここはもう出るからちょうど良かったよ」

「そっか」


久々知君が立ち上がって私の鞄を手渡してくれた。そのままつられるように皆帰り支度を始めるから、廊下に出て待つ事にした。


「何かあったか?」

「え?」

「嬉しそうに見える」


隣に立った久々知君にそう聞かれて顔をさわる。に、にやけてたかなぁ…。不思議そうに見つめられる。久々知君には、ちゃんと言わなきゃな…。


「…私ね、他の子と一緒に居る尾浜君を見るのは悲しいけど…やっぱり尾浜君が好き。だから、尾浜君が私から離れちゃうまでは…好きで居たいって思うんだぁ。久々知君、色々ありがとう。私は一人で頑張れるよ」

「……そうか」


久々知君はずっと心配してくれて、変わりに好きになってもいいって、言ってくれた。それは久々知君なりの優しさで、素直に嬉しい事だって、思う。
だけど甘えてばかりじゃ、私を守ってくれる尾浜君に悪いから。


「本当はさ」

「?」

「大木が俺の事兄弟みたいだって言った時、結構嬉しかった。多分、俺も同じなんだと思う」

「…そっか、うれしいなぁ」


久々知君は何を考えてるかわからないけど、優しいって解ったからもう恐いと思わない。久々知君と兄弟かぁ…照れて笑うと、頭を撫でられた。
久々知君と、ずっと友達で居られたら嬉しいな。その時に、尾浜君の隣に居られたら…それってすごく幸せな未来なんだろうな。


「でも」

「?」


天井からの光が遮られて上を向くと、久々知君が覗き込んでいて…あ、鞄両手で持ってるから、手が出せない……。
久々知君の唇が私のに優しく押し付けられて、数秒止まって離れていった。


「…好きになりかけてたのも本当だから、貰ってく」


瞳を細めて耳を撫でた久々知君を驚きと恥ずかしさで顔を赤くして見つめていると、勢いよく扉が開いて私の体は跳んだ。




back
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -