「大木」
「久々知君…なに?」
放課後バスまでの時間に図書室に行ってみようかと教室を出ると久々知君に呼び止められた。まだがやがやと賑わう廊下で、久々知君は立っているだけで注目を集めている。…イケメンは違うなぁ。
「今日勘右衛門達と遊びに行くけどお前も行くか?隣のクラスの奴も居るんだけど」
「隣って、不破君とか?」
「そうだ。学校だと勘右衛門とちゃんと話せてないんだろ?」
久々知君なりに、気を使ってくれてるんだ…。その優しさが伝わってきて、思わず笑う。
「久々知君、ありがとう。でも他の友達も居るなら邪魔したら悪いし…」
「大丈夫。他の奴らも誰か誘って来るから」
「うん、でも…私、男の子とは上手く喋れないって言うか…久々知君と尾浜君しか、ちゃんと話せる人居ないし…」
「兵助ー何やってんの?」
久々知君と廊下の端で話していると、後ろからひょこりと尾浜君が顔を出した。私に気付いて優しく笑ってくれる。
「あきと居たのか」
「ああ。今日一緒に来るか聞いてた」
「今日?ああー…」
「…かーんーちゃん!」
尾浜君の背後から両手が伸びて、ぎゅうっと抱き付いた。尾浜君はぽんぽんとその手を叩くけど離れなくて、抱きつかれたまま顔が出てくる。
「ねーねー、三郎君から今日遊びに行くの聞いたんだけど、一緒に行こー?」
「………」
「あっ兵助君も行こうよー!…その子、も行くの?」
その子、とちらりと私を見る。何かとげとげとしてて、思わずうつむいた。
「その子ってさ、前に勘ちゃんと手繋いでた子だよねー、今度は兵助君にしたの?」
「わたしは…」
「あーはいはい。こんなの放っといて俺と二人で行こうよ。それとも俺だけじゃ不満なのかなー?」
「あはっ、そんなわけないじゃん!!ねーねー私とも手繋いでよー」
「いいけど、繋ぐの手だけでいいの?」
「本っっ当に勘ちゃんってエロ親父だねー」
尾浜君と女の子はすぐに見えなくなって、私はまたうつむいた。こんなの…こんなのかぁ…。尾浜君の好きな子って、さっきの子かなぁ。おしゃれで、可愛くて、素直で…尾浜君とお似合いだな…。
「おい」
「あ、ごめん…」
久々知君に肩を揺すられてハッとする。ぼーっとしてたみたいだ。
「あんまり気にするなよ。言いたい奴には言わせておけ」
「うん…」
「今日はやっぱやめとくか」
「うん…でも、本当にありがとう」
久々知君にぺこりと頭を下げて顔を上げると、久々知君越しに目が合った。あれは…隣のクラスの竹谷君…。
「あっ兵助いたいた!早く行こーぜ!その子も行くのか?」
「いや、」
「勘右衛門は?先に行った?さっき勘右衛門狙いの子がちょうど来てさ、そっち行ったから先に行ったと思ったんだよなー!」
「ハチ、」
「なぁ名前何て言うの?」
「私、」
「あっお前こないだ勘右衛門と手ぇ繋いで来た奴だろ!?そっかー、んまぁ俺は竹谷だ!よろしくな!三郎と雷蔵もう玄関に行ってるから早く行こーぜ!」
上手く噛み合わなくて久々知君と私が口を閉ざしていると、竹谷君は勝手に納得して私達の背中をぐいぐいと押した。思わず久々知君の顔を見ると、久々知君もこっちを見ていた。
「………」
「…悪い」
「ううん…」
「お前ら見つめ合っちゃって仲良いなー!」
にこにこ笑顔の竹谷君に、行かないと言い出せなくて、それは久々知君も同じみたいで…全く正反対の人と親友になったりするって聞いたことあるけど、二人はそんな感じなのかなぁ。
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