「勘ちゃん!」
「んー?」
「これから質問するからぁ、イエスかノーで答えてね!」
「何、相性診断?」
「えへ、そうだよー」
「俺と君の占うの?占わなくてもちゃーんと答えてあげるのにー」
「いーじゃーん!結果見てから、それから教えてよ!」
…やっぱり、嫌な予感ほど当たるんだなぁ。尾浜君と向かい合って座る女の子にちらりと視線を向ける。昨日も、その前も、その前の前も…違う女の子だった。何か尾浜君パワーアップしてる気がする…。
朝、手を繋がれて登校してから。私と尾浜君は全然話していない。その日のお昼から尾浜君は旧生徒会室に来なくなってしまったから。最初は久々知君達と休憩を一緒にしてるんだって思ってたんだけど…少し早めに教室に戻った時、尾浜君はあんな風に女の子とお喋りをしていた。後から久々知君は戻って来たし…もしかしたら久々知君達と最初から別行動だったのかなぁと思う。
「あーっ私と勘ちゃんの相性は…85%でーす!!バッチリじゃないっ!?」
「すごいねー。後は体の相性確かめたらいーんじゃない?」
「えっ!?…な、や、だなぁ!エッチ!」
女の子のサイドの髪を指にくるくる巻き付けて頬杖をついた尾浜君が覗き込む。女の子は顔を真っ赤にさせるけど嬉しそうで…。ぶすぶすぶす、と胸に針が刺さっていくみたいに痛い。こんなの、見たくないよ…だけど顔を下げても声が聞こえてくる。
次の授業、先生が休みで実習なんだよなぁ…教室から逃げられなくて、また同じ様な状況になったら……。保健室、行こうかな…。立ち上がってもう一度尾浜君を見る。尾浜君、今日もこっち見てくれなかった…。俯いて扉に向かおうとすると、ぐいっと腕を引っ張られた。
「大木、来い」
「え、久々知君…っ」
ずんずんずんと一直線に進む久々知君に、こけないように必死に着いていく。久々知君…怒ってる、のかな…。何か恐い……。予鈴が鳴って、皆と逆方向に進んでいく私達はちらちらと注目を集めていた。
旧生徒会室にやって来ると久々知君は先に私を入れて扉を閉めた。シンと静まる室内に気まずい空気が漂う。恐る恐る久々知君を見上げると、思ったような恐い顔はしていなかった。それに少し安心する。
「久々知君、どうしたの?」
「お前ら、何があったんだ?あれじゃ勘右衛門ますます酷くなってるぞ」
少し困った顔で久々知君は首を傾げる。
「大木と関わるようになって、勘右衛門も落ち着いてきたし…くっつけば安心だって思ってたんだが…。この前事態は良くないって言ってたろ。何があった?」
「そっか…久々知君、尾浜君の事心配してたもんね。ちゃんと説明するべきだったね、ごめんなさい」
思えばずっと協力してくれてたんだから、久々知君にはどういう事か言ってあげた方が良かったなぁ。悪いことしたなぁ。
この前の久々知君が帰った後の事、今の尾浜君と私の関係と、私が考えている事を説明すると、久々知君はソファに座って私の顔を見つめた。
「そう、か。…変な方向に行ったな…」
「うん、でしょ…」
私も向かいのソファに座り、指先を見つめる。
「尾浜君はさ、私の事でずっとスッキリしなかったみたいで…それが無くなったから…」
「元に戻ろうとして反動で前より行動的になったのか…」
「多分…」
はあ、と溜め息が重なる。
「お前それでいいのか?」
「…それは…寂しい、けど…」
だけど、あの時私は頷いた。尾浜君が苦しそうなままなのは、嫌で…。だったら私がそれを無くせるならって、決めたのは自分だからあの時の選択に後悔は無いけど…。
「これから、尾浜君が好きな人を見付けちゃったら…私はもう尾浜君の側には居られないんだろうなぁって、それが悲しい」
この先無いとは言い切れない。ううん、多分きっとそうなるんだ。尾浜君が本気で恋をして、そうしたらその子に素顔のまま接するようになって…私は段々遠く離れていく尾浜君を、見ていなきゃならないのかなぁ…。
それって、すごく…。
「…だったらさ……、」
久々知君の言葉が続かなくて、久々知君を見つめて続きを待つ。じっと私の目を見つめて、やっぱり目力強いなぁ…。
「だったら、俺を好きになれ。多分、大木の事は好きになれる」
「…え、……」
久々知君が、真っ直ぐ見てくるその顔に嘘は見えなくて、久々知君は迷いなんてないみたいに見える。
「あ、の」
「そうすればお前も楽になれるだろ?」
「だ、だけど急には…あの、だから…」
久々知君を好きに…久々知君も私を好きに……カカッと顔が熱くなっていくのがわかる。
「それもそうだな。でもそう言う選択も頭に入れておいて」
久々知君は目元を細めて…あ、笑ってる、かな……何だかますます恥ずかしくなって私は思わず頷いて、うつむいた。
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