「…尾浜君」

「んー?」

「もう、暗いし…そろそろ帰ろうよ」


さっきまで私達を照らしていた夕陽もすっかり沈んで、今は薄暗い街灯が灯っていた。尾浜君…ずーっと私を抱き締めたままで…うう、嬉しい、んだけど…そろそろ限界…が……。


「えー、もう帰らなきゃダメ?」

「ダメ、じゃないけど…お母さんに遅くなるって言ってないし…それに、あの…は、恥ずかしいです…」


恥ずかしさの限界で離れたい、と思いつつも私の腕も尾浜君の肩をぎゅっと掴んだままで、私もつくづく矛盾してるなぁと思う。


「ほうほう。そっかぁー。あきは恥ずかしいのかぁー」

「う、ん…」

「じゃあ慣れるまで抱き締められてたらいいんじゃない?」

「!?」

「お母さんに遅くなるって言ったら…帰さなくていいの?」

「!!?」


ビクリと体が跳ねてしまって、尾浜君が体を震わせて笑った。だ、抱き締められてるから、直接体に伝わってきて…って事は、私の心臓が暴走してるの伝わってないかな…。


「はは、嘘だよ。バス停まで一緒に行こ」

「う、うん…」


ようやく体を離して立ち上がった尾浜君は私の鞄を持った。……離れたら離れたで、寂しい、なんて…言えない…。


「そんな寂しそうな顔するなよー」

「!!」


ば、ばれた…!






「バス停から家まではすぐ?」

「うん。団地の前で停まるから、大丈夫」

「そっか」


バスを待つ間、ベンチで隣に座った尾浜君は体をくっつけてきて…何だか尾浜君、さっきからすごくくっついて来るな…嬉しい、けど…街灯暗いし、顔が赤いのばれてないといいな…。


「あき」

「うん」

「今日の事でさ、トラウマになったりしてないか?」

「あ、うん…大丈夫。あの人達より尾浜君の事が気になってあんまりそう言うの感じなかったって言うか…」

「へぇ〜」

「あ、いや、そのっ…」


目をパチパチさせて、にこりと笑った尾浜君に自分が恥ずかしい事言っていたんだと気付く。言い訳ができない…うう……。


「あの子と俺が何してたか気になる?」

「あ、う、その…」

「あは、ほーんとあきは俺が好きだなぁ」


よしよし、と頭を撫でられてしまい、顔が上げられなくなる。私、さっきのでどういう立ち位置になったのかよくわからなかったけど…ペット、みたいな感じになったんじゃないかな……。


「教えてあげようか?」

「えっ、いやそん…!」


尾浜君の言葉にパッと顔を上げるともう避けられない程近くに尾浜君の顔があって。

唇をぱくっと食べられるように押し付けられて、それから舌が隙間にぬ、と差し込まれて…、…!!!


「…こーいうこと」

「そ、そ、うなん…」

「はしてないから安心して」

「えっ!?」

「ちょっと壁に押さえつけてあげただけだよー。ほらバスが来たから乗って」

「あ、う、うん…」


行った行ったと背中を押されてバスに乗り込む。すぐに扉が閉まって、ひらひらと手を振る尾浜君はあっと言う間に見えなくなってしまった。


「……遊ばれてる、わたし…」


だけどやっぱり嬉しいと思ってしまう私は……救いようがない。久々知君に言われそうだ。




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