「大木?」


聞き覚えのある低くて落ち着いた声。その声に振り返ると、久々知君が立っていた。少し肩で息をしてる…どうしてここがわかったんだろう。久々知君は私の顔を見ると少し目を見開いた。それからすぐにいつもの無表情に戻る。


「く、久々知!」

「何でここがわかったんだ!?」

「もしかしてこいつ、久々知の女だったんじゃあぐっ!!?」

「ま、待て待てっ!お前とやり合うつもりねぇって!!話聞けっ……!!」


「こいつに、何した?」


久々知君は迷い無く片っ端から一人ずつ、どうやったのか見ていても分からなかったんだけど…気が付いたら皆倒れてて、気絶…してる。最後の一人に詰め寄って首を傾げる久々知君は、表情だけ見ればいつもと変わらないのに…。


「大木、大丈夫か」

「…あ、うん。ありがとう、久々知君…」

「すぐ起きるだろうから、とりあえず出るぞ」


気が付くと側に寄って紐をほどいてくれていた久々知君に腕を掴まれて立ち上がる。言われるままビルを出て暫く無言で歩き続けた。腕はずっと掴まれたまま。

…尾浜君はあの女の子と何をしてるのかな。久々知君、やっぱり喧嘩強いんだなぁ。私は助けてもらえなかったらどうなってたのかなぁ…。


「…、お、い急に…」

「え、へへ…何か今頃恐くなって…腰抜けちゃった…」


へなへな、と突然動かなくなった私を久々知君が見下ろす。ちょうど小さな休憩所の様なスペースの前で、久々知君はそこと私を交互に見て、ぐっと抱えあげた。


「ぅっ、わあ……ありがとう。久々知君って力凄いんだね」

「普通だよ。勘右衛門の方が力あるぞ」

「久々知君の方が体おっきいのになぁ」


私の隣に座ってくれた久々知君は、こっちを見ずに真っ直ぐとどこか前を見つめていた。


「何でああなったんだ」

「…尾浜君が私と遊びたいって呼んでるから来てくれって言われて…」

「信じたのか…警戒心が無いな、お前」

「それ、尾浜君にも言われた事あるなぁ」


尾浜君、かぁ…。


「…私、ね。私のせいで尾浜君が不利になって危ない目に遭ったらどうしよう…って思って…でも来てくれない、って分かったら、悲しくて…えへへ、変だよね。矛盾してるってわかってるんだけど…だけど、やっぱり私は尾浜君には…女の子として見てもらえてなくって…それが寂しくて、」


こんな事久々知君に言ったって、意味がわからないのに。どんどん涙が出てきて、目を何度も擦るけど止まらない。やだなぁ私、人前で泣くなんて…。


「大木」

「ごめんね、久々知く…」


突然体が引き寄せられて、私は引かれるまま久々知君の肩に頭を押し付けられた。片腕で力強く抱き締められて、久々知君の顔はよく見えない。


「落ち着くまで」

「…うん、ありがと…」


体の力を抜いて久々知君の制服を握ると、頭を撫でてくれた。久々知君、優しいなぁ…さっきは凄い恐かったけど…助けてくれたのにそんな事思うのは失礼だな…。


「それと、」

「…うん?」

「大木は目に見える情報だけじゃなくもっと考えるべき。俺が突然あのビルに行ったと思うのか?」

「………」


そう言えば、どうして久々知君はあの場所が分かったんだろう。あの場所の事を知っているのは、私とあの人達だけだったし、私が捕まってるって知っていたのは……。



「勘右衛門は、大木が思うよりずっとお前の事を想ってるよ」











「う、痛ぇ……おい、起きろよ」

「…あ、あ…気失ってたのか…」

「くそッ久々知の野郎…あいつは尾浜をやってから狙う予定だったのに…次はただじゃおかねぇ…!」

「またあの女は使えそうだな…次は逆らえねぇような動画撮ってやろうぜ」


「そんな事させないけどね」


「あー?させないってお前……、!?」

「お、尾浜!?」

「いつから居たんだ!!?」

「久々知と言い尾浜と言い、何でここが分かるんだよっ!?」


やっとお目覚めの奴等は俺に全然気付かなくて、話に口を挟むとようやく椅子に座って頬杖を付く俺に気付いて慌てて後退さった。椅子の下でバラバラになった紐をつまむ。


「お前ら電話でこっち見えてる様な事言ってたし、この辺で通りを見渡せて勝手に入れるって言ったら限られてるから場所なんかすぐ分かったよ」

「そ、それで久々知を寄越したのかよ!自分は他の女と遊んでおいて!」

「…はぁ、まぁ勝手に何言われようがどーでもいいけどさ」


俺が動くとこいつらは調子に乗って行動がエスカレートしそうだと思ったから、兵助に電話して先に向かってもらった。兵助は俺の少し後ろを皆と歩いていたから。
ゆっくり立ち上がると更に一歩引く。


「俺は今イライラしてるんだよ。あきの悲鳴が耳に残っちゃってさぁ…」

「ま、待てよ。分かった、もうあいつには何にもしないからさ!」

「ああ、もうお前にも手は出さねーよ!久々知にもさんざんやられたし!!だから…」

「それで終わり?んな訳ないじゃん。大体そっちから仕掛けといてしっぽ巻いて逃げるって、おかしいんじゃない?」


あきは怖かっただろうなぁ。トラウマになっちゃってたらどうしてくれるんだ。へらりと作り笑いを浮かべて近付けば、皆顔を青くした。あーあ、こいつらのこんな顔見たって全然おもしろくないね。


「とりあえず、やられたら倍返しだー。それからトラウマ植え付けてやる」

「イ、イ、イヤーーーー!!!!!!」


何とも情けない悲鳴が響く。とりあえずこいつらのズボンは回収させて貰おうか。M字で縛って動画撮ってこいつらの学校の女の子に送ってやろ。




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