「ねぇねぇ君、尾浜の友達だよね?」


学校前のバス停で肩を叩かれて振り返ると、笑顔の男の子達がいた。違う制服…学ランって、どこの学校だろう…。私は尾浜君の…友達…?


「と、と、友達…って言ってもいいのかなぁ…」

「いや、こっちに聞かれても…?」


尾浜君は私の事、友達だと思ってくれてるんだろうか…だとしたらとっても嬉しいなぁ。この前は特別だって、言ってくれたし…。でも、特別からかうとおもしろいオモチャだと思われているかも………。


「…いや、私なんて友達とは思われていないかもしれない…」

「お、落ち込むなよ…」

「元気出せ!お前は友達だ!俺達が保障するからっ」

「う、うん…ありがとうございます…!」


励まされた。いい人達だ。所で一体私に何の用だろう?


「あ、尾浜君を待ってるの?多分もう学校には居ないと思うんだけど…」

「あー違う違う。君を待ってたんだよ」

「え?わたし…」

「そうそ。尾浜が一緒に遊びたいから連れて来てくれって頼まれてさ。だから一緒に来てくれよ」

「そうなんだ…」


尾浜君が、私を誘ってくれた…!嬉しくて顔が赤くなる。今日は遊びに行くような会話を女の子達としていたけど…まだ今日は会えるんだぁ……えへへ、嬉しいな…。


「わざわざお迎えに来てくれてありがとうございます。私は大木あきです。よろしくお願いします」

「おう。じゃーこっちだから行こうぜー!」


誘導されるままに歩き出す。尾浜君は何して遊んでるんだろう。他の女の子も居るんだろうな。ちゃんと話せるかな…。








暫く歩くと人通りのちらほらと少なくなってきた通りの、ビルの前で皆立ち止まった。


「ここだよ、ここに尾浜居るから」

「ここに…」


指差されてビルを見上げる。ボロボロの古い看板にはお弁当屋の文字。ガラス扉から見える店内は色んな物が崩れ落ちていて…当分使われていなさそうだ。こんな所で遊んでいるの…?
外付けの階段を後に付いて登って室内に入るとさっと鞄を取り上げられた。


「…?あの…」

「はー、楽勝だな」

「おい、こいつ一応縛っとくか。ボロ椅子にくくりつけよーぜ」


……?よくわからないままどんっと押されて椅子に座らされた。それからくるくるとナイロンの紐で椅子に巻き付けられて行って…。


「あれ?まだわかってねぇのかよ。尾浜が居るなんて嘘だよウソ!お前は尾浜をボッコボコにするための人質だ!」

「痛い目に遭いたくなきゃ、大人しく静かにしてろ」

「これで俺達は一気に最強の名を頂けるぜ!」

「……え、ぇ…」


そう言えば、尾浜君は喧嘩が強くて有名で。名前が一人歩きして突然襲われる事もあるみたいだった。前に石を投げられたって、言ってた…。
私は尾浜君の弱み、として捕まっちゃったの…?ど、どうしよう…。


「ちょっと携帯借りるぜ」

「な、何するの…」

「尾浜にきょーはく電話するんだよ。アイツは今日この辺で遊んでるからな。ダセー姿をここから見させて貰おうぜ!」

「ギャハッいいねぇ!女と一緒だったら女の目の前で下半身出してもらうか?」

「それ採用」

「や、やめてよ…」

「あん?お前に指図される筋合いはねーよ!」


ガンッと椅子を蹴られて体が跳ねる。ど、どうしよう…私がホイホイ信じて付いてきたばっかりに…尾浜君に何かあったら……。じわりと涙が滲む。


「お、噂をすればってやつか。見ろよあそこ、尾浜が居るぞ」

「よし、今すぐ電話しよう!おい、お前も見ろよ」

「…あ、尾浜君……」


ベランダの窓をカラカラと開けて、そのすき間から小さく尾浜君が見えた。女の子と二人で歩いてる。いつものへらりとした笑顔。尾浜君はポケットを探って、何かを取り出した。それを耳に当てると、部屋の中で尾浜君の声がした。そっちを見ると皆が携帯をにやにやと見下ろしてる。スピーカーにしてるんだ。


『誰?』

「よぉ尾浜。女とデートか?全く羨ましいぜ」

「ははっ、女ならこっちも居るだろー!」

『……あのさ、何の用?』

「おおっとそうだった。尾浜、お前の大事な女は預かった。助けたければ今すぐその女の前で下全部脱げっ!!」

「くくっ、マジ趣味悪りー」

「なぁ、人質の声聞かせてやろうぜ。おい、お前喋れよ。あきちゃん」

『え、あき?』


携帯をこっちに向けられて、相変わらずにやにやとした顔で私を見てくる大勢の目。私が声を出さなかったら…尾浜君はいたずら電話だと思ってくれるかもしれない。何かこの人達、暴力はしそうにないし…。俯いて黙っていると、ぬ、と誰かの手が伸びてきてスカートをつままれた。


「っきゃああああ!!!」

『、あき』

「おっとこれ以上は聞かせらんねぇな。早くしねぇと大事なあきちゃんがひどい目に遭うかもな?」

「お、尾浜君!今のは違うから!」

『……』

「…あれ、電話切りやがった」

「さぁて、どうするか見ものだな!」

「ムービー撮ろうぜムービー」


皆の視線が尾浜君に集まる。私も窓のすき間から外を見た。尾浜君は携帯を見ていて…再び耳に当てると、一瞬だけこっちを見たような気がした。それから……女の子の肩を引き寄せて、細い路地に入ってしまった。…………あ…。


「………何だ?」

「終わり?」

「助けに来ねぇのかよ…なんだ、こいつハズレだったか」

「はー、使えねぇなー」


皆が口々に私を見下ろしてため息を吐く。ガンッとまた椅子を蹴られて衝撃で目に溜まっていた涙が零れた。

尾浜君、私よりあの女の子を選んだ、んだ……やっぱり私の事、面白いオモチャってだけで、何とも思ってないんだなぁ…。


「なーこいつどうする?」

「そーだなぁ…せっかく拉致したのに何もせずに解放もなぁ」

「だよなあ…」

「………」


な、何だか変な空気になってしまった…。私はこれからどうなるんだろう。


「…さっきの悲鳴、結構良かったなぁ」

「撮影でもするか?」

「はは、それいいね。尾浜に送り付けてみるか?そしたら案外――、」



「大木、居るか?」



ギィ、と錆び付いた扉が開く音がした。




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