「さて、どー言う話か聞かせてもらおう」
「お、尾浜君…あのね、」
「うん?言い訳は、いらないよ。事実を簡潔にね」
「ひ、う…」
久々知君と入れ替わり座った尾浜君はずっとにこにこしてて、怖い…。事実、事実を簡潔に……。
「寝、ぼけた…久々知君が……何かと間違えたんだと思うんですが…」
「ふーん…それってこの前の兵助が先に行って寝てた時だよね」
「そ、そうです…」
尾浜君は質問と言うより確認と言う感じで聞いてくる。やっぱり尾浜君は勘づいてたんだなぁ…頭いいなぁ…とか意識飛ばしてる場合じゃない。だんだんと下がっていく視線を何度も尾浜君に向ける。怒ってる、のかな…。私が久々知君とキスしたから…?
「あきはさぁ、前も兵助に抱き締められてたし、警戒心なさすぎ。それともやっぱり兵助が好きなの?」
「違う、違います!」
「ほーんとかなぁ」
呆れたように頬杖をついてこっちを見てくる尾浜君。どうしたら信じてもらえるのかなぁ。私は尾浜君の事が好きなのに…。
「久々知君の事は、その…と、友達、だって思って、る…」
「…何で友達って言うのにそんなに照れるかな…」
「だって男の子の友達なんて居ないし…」
「ふーん…じゃあ俺は?」
体をこっちに向けた尾浜君は、肘をついて頭を支えてにやにやと私を見る。尾浜君、尾浜君は…。
「尾浜君は…」
「うん」
「笑ってくれると嬉しくて…目が合うとドキドキして、名前を呼ばれると体の真ん中がぎゅうって痛くなって…」
「…わかった。もう、いい」
「特別、なの。こんな気持ちになるのは、尾浜君だけだよ」
久々知君には感じない。他の男の子にだってこんな事ない。尾浜君だけだから。
真っ直ぐ目を見つめて言うと、尾浜君は目を丸くして、すぐにぷいっと顔を向こうに向けてしまった。………あれ、嫌がられ、た?
「……おはまくん、」
「…あー、ちょっと、今はこっち見ないで」
「!…う、うん……私、先に帰るね」
見られるのも嫌って事だろうか…。なるべく尾浜君を見ないように椅子を引くと、尾浜君は慌てた様にくるっとこっちを向いて私の手を掴んだ。
「ちょっと待って!何でそーなる!?」
「………」
「あ、しまった…」
こっちを向いた尾浜君の顔は真っ赤で…私が驚いて見つめていると前髪をぐしゃりと乱した。
「あー、あの、さあ」
「う、うん…」
「…おれも、なんだ」
「……」
「よくわかんないんだけど、からかってやろうと思ったら逆に振り回されたり、体の中が変にそわそわしてるって言うか落ち着かないって言うか…そーゆーの、あきだけだから、」
尾浜君の顔はまだ赤い。だけど今、それよりも私の方が赤くなっているだろう。真っ直ぐに見つめられて心臓がどんどん速くなっていく。
「だから、俺もあきは特別だと、思ってるんだと…おもう」
照れ臭そうにはにかんだ尾浜君なんて初めてで、心臓がどっくんどっくんと痛い。ゆるゆるとにやけていく私を、尾浜君は腕を引いて座らせた。
「…あーあ、喜ばせちゃった…」
「う、嬉しいです…」
「俺はいつだって優位に立ってたいの。なんか恥ずい…」
顔を向こうに向けたまま、尾浜君は手で口元を覆う。嬉しいなぁ。こんな尾浜君を知ってるのは、私だけ…。むずむずとして、出来るなら今すぐ跳び跳ねて駆け回って転がって叫びたい。そんな衝動をなんとか抑え込む。帰ったらやろう…。未だにやける顔のまま尾浜君を見ていると、いつの間にか赤みの引いた顔で私を振り返る。それから企むような笑顔を…え…?
「あき」
「は、はい…、っ!?」
「消毒、してあげようか?」
尾浜君はずいっと顔を近付けて、私の顎を持ち上げて親指で唇を撫でた。し、消毒…!?そ、れって、それって……!!!
「顔上げて」
「や、あ の、人も居るしっ…!」
「え、人?何の事だと思ってるの?あきちゃんのえっちぃー」
「えっ?えっ…??」
もしかして違ったの!?は、恥ずかしい…!!カッと羞恥で視界が滲んで、勢い良く尾浜君を見上げる。するとすぐ目の前に尾浜君の顔があって、口パクで「ばぁか」と言われた。
「………」
「……っわぁあああ!!?」
「…ちぇ。ざーんねん。あきも学習したな」
ハァ、ハァと息を何度も吸い込む。咄嗟に体が動いて、キスされる直前に唇の間に手を滑り込ませた、んだけど…プルプルと右手が震える。
「い、いま手、舐め…!!」
「知ってる?手とか足とか体の末端はさ、他よりも敏感なんだって」
んべ、と舌を出したままの尾浜君はそのまま上唇を舐めてにこりと笑った。
「これから暫く何するにも思い出しちゃって大変かもねー」
「そ、ん…」
そんな事言われると、意識してしまう…!!尾浜君はやっぱり、いじわるだ…!そう言うとにこっと可愛く笑って「でしょー」と言われた。ほめ、てないい…!
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