「勘ちゃん、今日さーカラオケ行こうよぉ」

「いいよー、それって今日は帰さなくていいって事?」

「あはは、やだなーすぐそういう事言うんだからー」


一際騒いでいるグループからそんな会話が聞こえて、私は本を読む手元から顔を上げた。

尾浜君は、にこにこと言うかへらへらと言うかいつも笑ってて
かるーく女の子も誘っちゃったりして
それでいわゆる不良と言う奴で。

喧嘩は負けなし、とか、学校付近のガードレールのめっこんでるやつは全部尾浜君がやった、とか、学校には尾浜君に逆らえなくて専用の部屋が用意されているとか。

恐いものから都市伝説の様な噂までよく聞くけれど、愛想のいい彼には友達が多い。
友達って言うか、うわべだけっぽいと思う。あ、でも久々知君には心許してるんじゃないかなぁ。久々知君と一緒に居るときの尾浜君は、日向ぼっこするおばあちゃんの膝で丸くなる猫みたいだ。


「兵助ー、兵助もカラオケ行く?」

「いや。俺今日豆腐作るんだ。材料買って帰る」

「あ、そー?じゃー俺もやめよー」

「えー!はち君とか誘って行こうよぉ」

「んー、でももう行く気なくなったから、またね」

「わかったー…」


尾浜君が本気になる事ってあるのかなぁ。ああいう人がちゃんと向き合う女の子って、一体どんな素敵な子なのかなぁ。あ、休憩終わっちゃう。
本を鞄にしまって頬杖をつく。くぁ、と欠伸を噛み殺してもう一度尾浜君を見た。彼が本気で恋愛したら……まぁ私には関係ないか。





べしゃっ


授業が終わってすぐのバスはぎゅうぎゅうに混むから、私は校内をうろうろとさ迷ってから学校を出た。タイルの溝に足をひっかけてこけてしまった。痛い…。


「大丈夫?」

「あ、尾浜君。大丈夫…すいません」

「なんで謝るの?」

「なんとなく…」

「ふーん…。あ、血」


何となくすぐには立ち上がらずに居ると背中をポンと叩かれた。顔を上げるとまんまるい尾浜君の目が私を見てる。手を差し出されて反射的に掴まると、尾浜君は立ち上がった私の膝を見て指さした。


「俺ばんそーこ持ってるからあげる。はい」

「あ、すいません…」

「また謝ってる」


尾浜君は胸ポケットをごそごそと探って絆創膏をくれた。…キティちゃん柄…かわいい…。ここ座って、と花壇のブロックをとんとん叩くので、大人しくしたがってそこへ座った。尾浜君はへらりと笑って私の前にしゃがみ込んだ。


「痛いのはね、人にこーやってもらうと治るんだよ」


尾浜君は擦りむいた膝に両手を丸くしてかぶせると、指の隙間からふうーと息を優しく吹き込む。あったかい。それに何だか本当に痛いのが弱くなった気がする。
暫くそのままの状態で会話の無い時間が過ぎた。どくんどくんと心臓が変な動き方をしてる。尾浜君、丸顔だなぁ…。目も丸いし、髪も丸い。コンパスで尾浜君の似顔絵書けそうだ…。ぼーっと尾浜君を見つめていると、パッと顔を上げた尾浜君は表情をへらりと変えて立ち上がった。


「はい、これでもう大丈夫」

「あ、ありがとう…」

「どういたしまして。あとパンツ見えてるよ」

「え!!」

「へへー、これで貸し借りなしねー」


ばっと顔を下げる。しまった、スカート押さえるの忘れてた!!もう一度顔を上げると、尾浜君はもう大分遠くに居た。今行くと尾浜君と同じバスに乗るのかな…少し時間をずらそう…。
鞄をぎゅう、と抱き込んでさっきの尾浜君を思い返す。尾浜君、優しい顔してたな。誰に教えて貰ったんだろう。好きな子かな…。さっきから心臓が変だな。尾浜君の顔を思い出すと……やっぱり心臓が変だ。キティちゃんの絆創膏をはがしてぺたりと貼ってみる。思わずにやりと笑ってしまった。


ああ、どうしよう。
好きになってしまったかも。




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