「ふぁ…」


眠い…。
今日は寄り道がしたくていつもより少しだけ早く起きた。昨日は眠ろうとすると耳元で聞こえた尾浜君の声が甦って…布団の中で何度もビリビリ震えてあんまり眠れなかった。うう、私の…へんたい……!


「あ、久々知君…おはよう」

「ああ、お早う。早いな」


いつもより早く着いた教室の扉を開けると、そこにはまだ人が全然居なくて、久々知君が一人椅子に座っていた。


「久々知君も早いね。いつも一番なの?」

「ん、どうかな。大体そうかもな」

「へぇー」


早起きさんなんだなぁ。すごいなぁ。久々知君が私の手に持つものをじっと見る。そうだった、感心してる場合じゃない。


「久々知君、これあげる」

「豆腐屋の豆乳じゅーす…」

「昨日は、その…久々知君のお陰で尾浜君とデート、が出来たから…」


デート…昨日の尾浜君を思い出して、耳元で聞こえた尾浜君の声を思い出して…あ、またダメだ首まで熱い…。久々知君豆乳に釘付けで良かった…。ぱたぱたと顔を手で扇いで冷ましていると、久々知君は顔を上げて、それで、


「大木、ありがとう!」

「…!」


いつもの無表情な久々知君からは想像ができない、満面の笑みを向けられた。か、わいい…!!久々知君だって普通の高校生なんだなぁ…。少し距離が近付いた気がして嬉しいな…。久々知君は早速袋から豆乳を取り出すとストローを刺す。


「……うまい…」

「そっか。よかったね」


こくりと頷く久々知君は結構かわいい。どっちかって言うとかっこいいの方だと思ってたけど、こんな一面もあるなんて知らなかったなぁ。久々知君が顔を上げて私を見上げる。いつもの無表情だ。ずいっと手を突き出された。


「大木も飲むか?」

「え?いや…」


それ、飲みかけ、だよ…?久々知君はそんな事気にしてないのか気付いてないのか。おすそわけとばかりに豆乳を突き出してくる。ど、どう言えば自然に断れるかな…。


「美味いぞ」

「ああ、うん。久々知君が言うならきっとそうなんだろうね…でもそっん!?」

「飲め」


久々知君…話してる途中でストローを私の口に突き入れた。後ろに逃げようとしたけど首を後ろから掴まれて動けない。ち、力強い…。ていうかこれ、は間接キス、に……


「美味いだろ?」

「う、うん…」

「大木、何でそんなに顔赤いんだ?」

「う、うん…」

「?」


…今のは、ノーカウントにしておこう…そうしよう…。







「…あれ、久々知君だぁ」


旧生徒会室に行くと、久々知君がソファで横になっていた。寝てる…。もしかして、また豆腐でも作ってきてたんだろうか…。背もたれ側から久々知君の顔をそーっと覗き込んでみる。まつげ、長いなぁ…寝顔って恥ずかしいから自分のは人には見せたくないけど、イケメンは寝顔もイケメンだなぁ…。しばらく見ていると急にぱちっ、と。久々知君の目が開いた。予兆なかった。いきなりだった。こわい。


「………」

「…く、くちくん、おはよう…」

「………手」


手?よくわからず手のひらを久々知君に向けると、久々知君の手が伸びてきてそのまま手を通りすぎて腕を掴まれた。ぐっと体重を掛けられて少し前のめりになるのをソファに掴まって踏みとどまる。私の腕を手すりにして上体を起き上がらせた久々知君の顔がすぐ近付いてきて、

そのままキスされた。


「………え」

「………ん?」

「え…?」

「んん…?」

「え!?」


「………あれ?」


暫くお互い見つめ合ってポカンとしていたけど、久々知君から何も言われなくて…キスされた。理解した瞬間に大声を出して後ろに跳ねた。そうしたら久々知君が首を捻って…もしかして寝ぼけてた…?!


「久々知、君…」

「あ、ああ…悪い、寝ぼけてた、のか…?」

「久々知君…」

「悪い。無かった事にしよう。な」

「う、うん…そうする…」

「よし」


だけど、久々知君の唇、柔らかかった…。無意識に久々知君の唇を見てしまい、反らすために目を見れば、久々知君も私の唇を見つめていて…な、無かった事に、出来るかな……。


「…あれ、二人とも見つめあってどーしたの?」


ずぎゃん。
私の心臓に効果音がつくならきっとこれだ。
後ろから声を掛けられて体が飛び跳ねた。すぐに振り返ると尾浜君がきょとんとしてて…だんだん訝しげなものになって行く。


「あき、何かあったの?」

「あ、や、あの…」

「何も無いよ。昼寝してたのを盗み見されただけだ」


言葉に詰まった私を久々知君が見かねてなのか助けてくれた。尾浜君はそうなんだ、と興味の無さそうな返事をしてソファに座ってしまった。漫画を読んでいる尾浜君を確認して、久々知君が冷たい視線を私に向ける。こ、こわい…。どうして被害者はこっちだって言うのに私が怒られなきゃならないの…。




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