学校が終わりバスが空くまで時間を潰して、そろそろいい時間だと鞄を取りに教室に戻ってくると男の子の後ろ姿が見えた。まだ教室に誰か居たんだぁ。誰だろう…。ひょこりと教室に顔だけ入れてみると、すぐに誰だかわかった。


「久々知君」

「…ああ、大木。まだ帰ってなかったのか」

「うん。バスが混んでるの嫌いだからいっつも落ち着くの待ってるんだ」

「そうか」


どうやらさっきから考え事の最中だったみたいだ。久々知君は言葉を切るとまた考え込んでしまった。うーん…考え事の邪魔したら悪いし、私はそーっと帰ってしまおう。鞄を静かに手に取ると音を立てないように忍び足で歩く。ぬきあし、さしあし……。


「兵助ー、そろそろ行くよー…って、あきも居たんだ」

「う、うん。たまたま…私はもう帰るから」

「大木待て」


もう一回尾浜君に会えた事にうかれて帰ろうとすると、久々知君が手のひらをこっちに向けて停止を告げる。どうしたんだろ…? 少し近付いて尾浜君の隣まで行って久々知君を見ると、久々知君は眉を少しだけ下げて尾浜君と私を交互に見た。久々知君…困る事もあるんだなぁ…なんて失礼な感想が頭に浮かぶ。


「勘右衛門、悪い。突然委員会開く事になったんだ」

「あー、いーよ別に。終わるまで待ってる」

「いや、それでは遅くなってしまうから…大木と行ってくれないか?」

「え…?」

「あー、うん。そうだね、女の子の方がいいかぁ」

「だろ」

「え……??」


二人してうんうん頷きながら私を見る。何の話をしてるのか、さっぱりわからない…。だけど二人は納得したみたいで、久々知君はすぐに鞄を持って教室を出ていってしまった。ポン、と肩を叩かれる。…尾浜君、いい笑顔…。



「あき、俺とデートしよ」







尾浜君に連れられてやって来たのは街中のおしゃれなカフェで、外に出た丸いテーブルで向かい合って座…らなくて、店内を背に無駄にスペースを余して隣合わせに座っていた。ま、またデート、しちゃった…。しかも制服デートと言うやつ…。緊張して尾浜君が頼んでくれた紅茶ばかりを見つめていると、頭をポンポンと撫でられた。顔が熱い。


「急にごめんねー」

「う、ううん…あの、久々知君とどんな用事だったの?」


元々久々知君と予定があったのを私と行く事になったみたいだし、久々知君とこのカフェに来るつもりだったのかなぁ…。女の子の方がいいってどういう意味だったんだろ…。


「うん。実はさ、雷蔵…あ、二組の不破って知ってる?」

「うん」

「その雷蔵がさ、バイトを始めたんだけど、バイト先に好きな子が出来たらしくてさ。本人から聞いた訳じゃないんだけど三郎が奥手な雷蔵を助けたいって言うから…とりあえず今日は偵察」

「そうなんだ…」

「あっ、あれあれ!」


尾浜君が私の肩を叩いて通りの向こうを指差した。カフェの斜め向かいに本屋さんがあって、自動ドアが開いてエプロンをつけた店員さんが二人出てきた。一人は、あ…不破君。と、色素の薄い髪の毛がふわふわな女の子。不破君は女の子が大量に持ち上げた本を受け取って、何か会話している。不破君が優しく笑うと女の子は耳を真っ赤にして………あ。


「…何か、別に助け要らないんじゃないかなぁ。あきはどう思う?」

「……二人とも…お互いが好きなんだろうなぁ」


私は知っている。不破君の優しい笑顔がどんな気持ちのものなのか。耳を真っ赤にした女の子がどれだけ心臓をドキドキさせているか。きっと二人とも、私と同じなんだ…。


「尾浜君」

「ん?」

「不破君達は、大丈夫だよ」

「…なーんで恋愛初心者なあきちゃんが自信満々に言うかなっ」

「い、いひゅ…」


うり、と頬っぺたをつままれて腕をぺちぺち叩く。手を離されてつねられた所をさする。うう、いじわるだ…。じとりと睨むと尾浜君は困った様に笑って、それを見てはっと思い出す。


「そう言えば、」

「うん?」

「女の子の方がいい、ってどういう意味だったの?」

「ああ。ここはカフェだし、男二人で来るより自然だって事」

「ああ…なるほどぉ」


確かに男子高校生二人でカフェに居るよりは自然かもしれないなぁ。それに正直、尾浜君はカフェに居るお客さん限らず道を歩く人ですら注目を集めている。これが久々知君と二人だったら…逆ナン、とかされてるんじゃないかなぁ…。あ、向こうの席の女の子と目が合った。あ…立ち上がって、こっちに…。


「お、尾浜君、」

「ん?…、」


尾浜君の名前を呼ぶと、尾浜君は私の視線を追って立ち上がってこっちに来ようとする女の子達に気付いた。
尾浜君は、あの女の子達に声を掛けられちゃったらどうするのかな…。行っちゃうの、かな……それは寂しいなぁ…。思わず尾浜君の肘辺りを掴んで俯くと、こっちを振り返る気配がした。それから優しく名前を呼ばれる。


「あき」

「うん…」


急に。
肩に腕を回されてぐっと顔を近付けられる。咄嗟に顔を上げると尾浜君の顔越しに立ち止まった女の子達が見えた。それからその子達はそのままどこかに行ってしまって…。掴まれた腕がぴくりとも動かせない。尾浜君の吐息がおでこに当たる……あ、つい…。


「……行った?」

「う、ん…」

「はー、良かった。兵助と二人だとよく声掛けられるからさぁ。あきが居ても掛けられそうだったけど」


ぱっと手を離して距離を取った尾浜君は、ふう、と息を吐いた。


「………」

「ん?もしかしてあきちゃん置いてっちゃうと思ったの?」

「いやっ、あ、のそれは…」


冗談ぽくにこり、と作った笑顔を向けられてあたふたとすると、尾浜君はきょとん、と真ん丸な目をさらに丸くする。あ、う…言い訳出来なかった…。尾浜君は丸くした目を優しくすると、再び肩に腕を回した。優しく引き寄せられる。その手を持ち上げてさらりと私の髪を撫でて、髪の毛を耳に掛けられて…く、すぐったい…。


「馬鹿だなぁ。あきを一人にする訳ないのに」

「あ…う、うん……」



尾浜君の笑顔、さっき見た不破君のと似てる。まさか………いや、違うよね。
バクバクと急がしく動く心臓が痛くて目をさ迷わせていると耳元に唇を寄せて「かおまっか」と囁いた尾浜君に、私の体はつま先からてっぺんまでぶるりと震えた。




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