「………」
「………」
「………」
「…まだ?」
「ご、ごめん、繋ぐ、繋ぎたい…」
でも、緊張して…。
差し出された手をなかなか取れなくて、尾浜君が呆れてる。は、早くしなきゃ…ぎゅっと目を瞑ると一思いに尾浜君の手を掴んだ。…すぅーー……はあーー。深く深呼吸して、何とか気を保たせる。尾浜君の手、私のと全然違う…固くておっきくて、暖かい…。
「尾浜君の手、きもちい…」
「…何言ってんの。行くよー」
目を開けると尾浜君は私をじっと見てたけど、不思議に首を傾げるとさっと目を逸らして私の手をぐいっと引っ張った。手を繋いで歩くのなんて、小学校低学年ぶり…。男の子と手を繋ぐのは…保育園ぶり…。きゅ、と握る手に力を入れると、尾浜君も握り返してくれた。それだけで、何かもう……。
「尾浜君」
「ん?」
「私、もうこれだけでいい…」
デート、もとっても楽しみにしてたけど、手を繋いで歩くのはこんなに幸せな事だったんだ…。その上1日尾浜君と一緒に居られるなんて。
「嬉しくて死んじゃいそう…」
「………」
尾浜君に手を引っ張られて来たバス停の前で見上げて言う。尾浜君は何も言わなくてじっと私を見てる…。顔、熱い。真っ赤なんだろうな…。俯こうとしたら尾浜君は私をぎゅ、と抱き締め……、…!!
「お、おはまくん」
「…少女漫画デートなら、抱き締めるくらいするよ」
「そ、そうか…」
人通りもある、けど…確かに少女漫画なら人前で抱き合う事もあるよね…よ、よぉし。緊張してがちごちの体を動かして尾浜君のシャツを控えめに掴む。し、深呼吸しよ…。
「これじゃあ俺が保たないなぁ」
「?」
「何でもないよ。バス来た、乗ろう」
手を引かれるままバスに乗ると後ろの二人掛けの席に座った。そう言えば、目的を持って尾浜君は動いてるみたいだけど…どこに行くんだろう。尾浜君が私の視線に気付いて首を傾げる。可愛いなぁ。
「尾浜君、どこに向かってるの?」
やっぱり、デートって言ったら映画とか…?ドラマで見るデートは食事とかだけど、あれは大人のデートだし…よくわからない。デートって一体何をするんだろう…。
「ん?俺んち」
「…えっ」
「DVD借りたし、俺んちで見よー」
お、お家デート…!!そ、そうなんだ…お家…お家に……。
「わ、わ、わたし手土産も持たずに…今すぐ買ってきます!」
「落ち着いて落ち着いて。今日誰も居ないから」
「だ、誰も…!?」
「うん?えっちな事しないから安心して」
え、えっちな事…、って…、!!頭が沸騰しそうに熱い。尾浜君が顔の前で手をひらひらと振って「だめだこりゃ」と言ったけど、反応する余裕がなかった。
「ここだよ」
バス停のある大きい道路から住宅街に入ってすぐに尾浜君は立ち止まった。う、緊張、する…。男の子の家なんて、小さい頃に遊んだ記憶しかない…。尾浜君に着いていき、促されるままに家の中へ足をいれた。
「お邪魔します…」
「どうぞー」
靴をきちんと揃えると、待っていてくれた尾浜君は「こっち」と階段を指差した。あんまりキョロキョロするのも失礼だしじっと尾浜君の背中だけを見つめる。尾浜君、背中広いな…細そうだと思ってたけど意外としっかりしていそう…。
「ここ…っわ」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
尾浜君が止まったのに気付かなくて、振り返った尾浜君にぶつかってしまった。咄嗟に尾浜君は抱き止めてくれて、手は背中に回ったまま。顔を見上げると、きょとんとした顔を数回瞬きしてニイ、と変えた。
「あきちゃんは部屋まで待てないのかなぁ?だいたーん」
「あ、う…」
抱き締められたままで逃げ場はないし、だけど赤くなる顔を隠したくて尾浜君の胸に顔を押し付けた。尾浜君の笑い声が上から聞こえて、うう…。一度ぎゅうっとくっつくように抱き締められて、それから頭を撫でられて解放された。
「飲み物持ってくるから部屋に入ってて」
「うん…」
尾浜君が階段を降りて行って、扉のパタンと言う音が聞こえた。言われた通りに部屋に入るとベッドと勉強机、ローテーブルとテレビ、ゲーム…部屋にテレビがあるなんて、羨ましい…。どこへ座ろうか悩んで、ベッドを背もたれにして座らせてもらった。
ふと電源の切れたテレビ画面に私が映っているのに気付く。撫でられた頭を思わず触る。……えへへ。何だか少女漫画ごっこデートって言うより、恋人ごっこみたいで……あ、にやける。ダメだ。
「何してるの?」
「……え、へへ」
にやつく顔を戻そうと頬っぺたをみょんみょんしていると尾浜君が戻ってきた。何とか笑って誤魔化した。
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